ジュエリーコンシェルジュ原田信之

原田信之 所有されているジュエリーの活用方法をアドバイスする株式会社ジュエリーアドバイザー アンド ギャラリー JAAG(ジャーグ)の代表のブログ。オークションの査定や百数十回に及ぶ宝石の海外買い付け、ジュエリーのプロデューサーとしての経験を生かして、相続や売却、資産性のある宝石の購入のアドバイスをします。

ジュエリーアドバイザーの仕事帖㉑

加熱の痕跡あり

 「非加熱ルビー」と聞くと宝石好きは値段に身構えます。殆どのルビー、サファイアは加熱処理されて色が改善されています。加熱処理を必要としない美しいルビー、サファイアも極わずか存在します。その稀少性から価格には大きなプレミアムがつきます。特にその透明度や自然光下での発色の良さからビルマ(ミヤンマー)モゴック鉱山産のルビーは大粒になれば価格差は10倍以上になることも珍しくありません。
 加熱処理は1,000年以上前注1)に既に行われていました。口でパイプから空気を送り込んで行う原始的な加熱が長く行われていましたが、それでは700度ぐらいまでしか温度が上がらず殆どのインクルージョンは変化しませんので色の改良がされていても加熱の判断は出来ません。その後1980年代初期の電気炉の出現によって1,500〜1,800度注2)での加熱が可能となり幅広く処理されるようになりましたが、幸いこの処理は高温によって大きな変化が生じるため発見しやすい傾向にあります。
 一般に「非加熱」と言われているのは「加熱の痕跡なし No Indication of Heating」が正しい表現です。鑑別では加熱が施されているか否かを加熱の痕跡の有無で判断しています。加熱されていても痕跡が残っていなければ実際は加熱されているか否かは分かりません。そのためラボの拡大検査注3)ではある一定の温度で変化するインクルージョン(内包物)を頼りにします。ルビー、サファイアでは針状のルチル(酸化チタン)が60度、120度で交差するシルクインクルージョンが分かりやすいので一つの目安になります。シルクインクルージョンは1,200〜1,350度の熱で融解することが分かっています。しかしシルクインクルージョンが綺麗に残っているから「加熱の痕跡無し」とは言い切れません。
 ビルマ(ミャンマー)モゴック鉱山産のルビーにおいて1,200度未満の温度で変化するシルクインクルージョン以外の鉱物が温度によってどのように変化するかをGIAがGems & Gemology 2022 Winter で発表しています。
 モゴック鉱山産ルビーに含まれる代表的なインクルージョンのカルサイト(方解石)、マイカ(雲母)、スピネル、ジュルコンを非加熱、600度、750度、900度、1,500度で加熱して顕微鏡写真で撮影して変化を観察しています。中でもわかりやすい例を掲載しました。少し専門的ですが、温度による変化の画像は貴重なので興味のある方はご覧ください。(ブログの画像は小さいのでクリックして拡大してご覧下さい)
注1) Al-Beruni The Book Most Comprehensive in Kowledge on Precious Stones (1989)
注2) コランダム(ルビー、サファイア)の融点は2,040度
注3) 拡大検査の他にラマン分光器や紫外線短波の蛍光反応等の検査も有効


Winter 2022 Gems & Gemology表紙
Gems & Gemology 2022 Winter表紙


図6
ルチルのシルクインクルージョン。このようなシルクインクルージョンは無処理のビルマ産ルビーの特徴であるが、比較的低温で加熱された石にも見られることがある。
E. Billie Hughesによる顕微鏡写真、視野3mm。

図9
A:中央の大きな透明な結晶は、中央がスピネルであり、右側は液体化したCO2を含むカルサイト結晶
B:背景の色が大きく変化しているのは、亀裂の色が大きく変化しているためです。ルビーのボディカラーは大きく変化していないように見える。
C:右側の結晶が破裂し、表面に小さな穴が開いています。左上には、小さな結晶の周りにガラス状の円盤が見えます。
D: 背景の色が再び変化している。
E: 多くの変質が見られ、いくつかの箇所で部分的に癒着した亀裂が見られる。
E. Billie Hughesによる顕微鏡写真;視野2mm。


図11
A:細長い雲母の結晶の周囲に、小さな結晶がいくつも並んでいる。
B:左上の小さな亀裂を除いては、ほとんど目立った変化は見られない。
C:このシーンは、明らかに熱による変質の跡が見られます。先ほどの亀裂に加え背景の結晶の周りにガラス状の円盤が現れています。手前の雲母結晶の周りには、光沢のある亀裂が目立つ。
D:いくつかの亀裂が癒着し始めている。雲母結晶の周りのガラス質の亀裂は細長い溝ができ、フレーム上部のガラス質の円盤の部分的に治った縁はくびれができ、幅が広くなり始めている。
E: 場面が一変し、溶けたようなガラス質の円盤と部分的に癒着した亀裂が視野全体に見えるようになりました。雲母結晶の中心には動かない気泡が発生している。画像AとBは暗視野照明で撮影したものです。
C-Eは光ファイバーによる拡散照明を加え、亀裂をより明瞭にしている。
E. Billie Hughesによる写真顕微鏡写真;視野1.5mm。


図12
A:カルサイト(方解石)結晶で、非加熱の状態を示す。
B:結晶の周囲にガラス質の亀裂が発生している。
C:亀裂の縁が癒着し始め、曇ったような状態になっている。
D:亀裂がさらに癒着しています。
E:亀裂の癒着に伴い、ガラス質の部分がほとんどなくなっている。一方、カルサイト結晶はより不透明になっている。
F:暗視野照明により、白色化・不透明化しているカルサイト周囲のフィンガープリントの詳細なチャンネルが
わかる。
E. Billie Hughesによる写真顕微鏡写真;視野2.2mm。


図15
A:左側の3つの六角形の結晶は雲母で、右上の結晶はガーネットである。また、この場面では、未溶解のルチルの針と針が交差するように存在し集合を作っている。
B: 4つの結晶のうち、3つの結晶の周りに光沢のある亀裂が見られます。左から3番目の結晶は、最初の2つ
の結晶と同じ雲母であるにもかかわらず、亀裂が見られない。ガーネットは亀裂が見られます。
C: 4つの結晶がすべて変化し、亀裂の端が癒着し始めています。
D:既存の亀裂が拡大し、さらに癒着しているため、さらなる変化が見られます。ガーネットの右側には、新しいフィンガープリント(指紋)ができています。4回の加熱によっても背景のルチルのシルクインクルージョンは変化していません。
E: 亀裂が大きく変質し、曇った部分や滴るような溝が見られるようになりました。左側の3つの雲母の結晶は透明度が増し、いくつかの動かない気泡を含んでいる。背景のルチルのシルクインクルージョンは大きく変質し、部分的に溶解して短く折れた針や点状の粒子になっています。以前は「絹のよう」だった部分が、より透明に見える。
E. BillieHughesによる写真顕微鏡写真;視野3mm。

ジュエリーアドバイザーの仕事帖

Mainichi Auction 420X260

「オークションで考える宝石の資産性」
 「こちらのピンクダイヤモンドは人気がありますので3億円からはじめましょうか。」
オークショナーの一言に会場と電話でのビットによって10数本のパドルが一斉に上がりました。3億1千万円、3億2千万円、3億3千万円と1千万円ずつせり上がり1分後には4億円の大台に乗りました。このあたりから競り手が絞られてきました。数人の電話でのビットに対し会場で参加している中華系のご婦人が受けて立つという状況に変わりました。4億1千万円、4億2千万円と上がり続けるビットにもこのご婦人は間髪入れずに応戦して降りる気配がありません。4億5千万円を超えたあたりから電話側の考える時間が増えてきました。一方ご婦人は絞り出されたビットにも全く動じず、直ぐにパドルを上げてきます。価格はついに5億円を超え電話のビットは更にペースダウン。5億1千万円、5億2千万円とこの辺りまではどうにか付いてきましたが、5億3千万円に達するとピタリと止まりました。オークショナーが5億3千万円を連呼して電話側のビットを促す時間が続きます。ビットしてもビットしても下りない相手に電話の主からの徒労感が固唾をのんで見守る会場内にも伝わってくるかのようです。沈黙が1分ほど続きついにオークショナーからラストコールがかかりました。「皆さん下りていますね。」「5億3千万円、会場のお客様が落札です。」会場から拍手が湧き上がり、落札者を祝福してこの競りは終了しました。
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 私が知る限り5億3千万円という金額は、日本のジュエリーオークション史上の最高額となります。今回この額をたたき出したピンクダイヤモンドのGIA のレポートには6.11カラット、モディファイドペアーシェイプブリリアントカット、Fancy Intense Pink VS2 Typeaと記載されています。しかし、このデータだけではこの宝石の持つ美しさは正しく伝わりません。ルースの先端が丸く研磨されているのでペアー(洋ナシ)というより卵形の方が分かりやすいかと思います。最近はガードルの下にプリンセスカットのような細かいファセットをつけて色だまりを作り、色を濃く見せるカットが主流なのですが、このピンクダイヤモンドはスタンダードなブリリアントカットである事、キュレットの形状、欠けやすい尖った部分を丸く仕上げたカッターの見識注)などから見て少なくとも50年以上前に研磨されたと想像できます。色相も多くのピンクダイヤモンドがFancy Purplish Pinkなのに対してFancy Pink、いわゆるストレートピンクなので稀少性が高くなります。色の濃さもIntenseとファンシーカラーの中では十分な明度です。日本人には「綺麗な桜色」と言うと想像しやすいと思います。クラリティのVS2もガードル周りの白いフェザー(羽状内包物)によるもので美しさを損なわず天然の特徴と言えるため購入を妨げる類のものではありません。
6.11ct PS Fancy Intense Pink VS2 GIA Report

 落札価格は日本円にして5億3千万円、これをオークション時の為替145円で計算すると約3.7百万米ドルとなります。仮にこのダイヤモンドが今年の初めに開催されたオークションにでていたとします。当時の為替は110円近辺ですから、落札価格は4億円程度となったでしょうか。出品者にとっては円安の恩恵で1億3,000万円も増えた計算です。宝石はドル建てで取引される商品ですから、ドル資産となって自国通貨安の時にはドル預金のような効果を発揮します。
50年前の1970年代前半、ダイヤモンドの相場は安く、特にファンシーカラーダイヤモンドの相場は現在の10分の1以下ほどでした。もしその頃にこのピンクダイヤモンドを日本の方が購入されていたとしたなら、固定相場で為替308円であったことやその後の為替の変動を差し引いても十分にお釣りのくる資産性を発揮したと言えるでしょう。
稀少性の高い宝石は、何より身につけて美しさを楽しみ、長期的には資産にもなり得る事を今回のオークションは教えてくれているのではないのでしょうか。
6.11ct PS Fancy Intense Pink VS2 discription

注)この卵形の先端に爪を掛けると尖ったように見えるので、視覚的にはペアーシェイプと同様になります。ダイヤモンドの保護を考慮したカッターの見識。


ジュエリーアドバイザーの仕事帖

Diamond Rough

真のサステナブルとは

Rough Diamonds Production 1871-2021 社名入り


 上のグラフは1870年から2021年までのダイヤモンド(原石)の生産量推移です。2005年に177百万カラットでピークを記録し、その後徐々に減少していきました。2017年、152百万カラットまで盛り返し、2020年には新型コロナウイルスのパンデミックによる影響で一時108百万カラットに激減しましたが、2021年には前年にアーガイルへ鉱山(オーストラリア)の閉山があったにもかかわらず、137百万カラットに回復しました。米ロの新冷戦で流通は不透明ですが、世界最大級のダイヤモンド鉱床を持つロシアの生産に関しては安定的と予想され、ボツワナ、カナダで幾つかの新規のパイプが見込まれており、今後数年は120〜130万カラットで推移すると予想されています。
 国連によると世界の人口は現在の77億人から2050年の97億人へと今後30年で20億人増の予測があり、少なくとも需要面での減少は考えづらく需給の逼迫が想像できます。価格に関してもインフレで値上がりは避けられそうもありません。
 ここまで読むとこれからダイヤモンドは不足しそうに思えますが、宝石の特性の一つ「宝石は捨てられない」ことを忘れてなりません。使わなくなったからと言って宝石を捨てる人は少ないと思います。ましてダイヤモンドのように稀少性が高い宝石は尚更です。ダイヤモンドは紀元前から採掘されていますが、20世紀はかつて無いほどダイヤモンドが採掘されました。このグラフの50年間だけでも産出されたダイヤモンドの総量は6,000百万カラット(1,200トン)を超えています。
 工業用が半分、残りの宝石用*3,000百万カラットのうち研磨上がりの歩留まりが仮に平均30%だとすると一度はジュエリーにセッティングされたものが900百万カラットもどこかに眠っています。この内何分の一でもリサイクル出来れば新産のダイヤモンドの必要性は低くなります。
 鉱山開発には大量のエネルギーを必要とし、環境にも影響します。もし多くの需要をリサイクルで賄えれば究極のエコロジーになります。ジュエリーの解体技術の向上によって最近では完成度の低い昔のカットのメレーダイヤモンドを最新のカットにリカット(再研磨)して流通されることが増えてきました。メレーサイズでもこの傾向ですから、大きいサイズのリカットは言わずもがなです。
 また、大粒で高品質な宝石ほど優先的に何度も流通を繰り返します。ダイヤモンドだけでなくルビー、サファイア、エメラルドのようなカラーストンの稀少性の高いものの履歴をたどれば還流が多いのは一般的には知られていません。
 更に構想がしっかりしたジュエリーは時代を超えてジュエリーのままで再流通しますので加工賃も無駄にならず、更にエコロジーになります。
 ジュエリーにおける真のサステナブルとは既に人の手元にある宝石を還流させることです。21世紀は過去をリサイクルする時代でもあります。

グラフ単位:百万キャラット

*採掘された半分がニアジェムを含む宝石用と大雑把に分類、ジェムクオリティ(高品質)は全体の約20%と言われています。


グラフデータの出典:
1870-2004年はGIA Gems & Gemology 2007 Summer GLOBAL ROUGH DIAMOND PRODUCTION SINCE 1870からトレース
2005-2019年はRough Diamonds Production 2005-2019 by BizVibe
2020-2021年はGlobal Diamond Industry 2021-2022 by BAIN & COMPANY

ジュエリーアドバイザーの仕事帖

Fancy Intense Blue Diamond Ring S

「インフレと宝石」
2022年4月27日、のSotheby's Hong Kongのオークションで15.10ct Fancy Vivid Blue Internally Fl awlessのエメラルドカットダイヤモンドが57.5百万ドルで落札されました。1カラット当たり約3.8百万ドルという高値です。 価格が比較出来る20年前の相場の10倍以上になっています。
今年になってコロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻による経常収支の悪化と日米の金利差から円安が進んでいます。輸入物価が急速に上がって、ついに日本もインフレ局面に変わってきました。従来、インフレに強い資産と言われるのは金や土地の現物資産と株式などの有価証券、米ドルなどの外貨ですが、それに加え最近、宝石を資産として買いたいと言うご要望が増えています。果たしてこれらの選択肢に比べて宝石はどのような位置づけになるのか考えてみたいと思います。
まず、宝石の価格は米ドルがベースです。私の場合、日頃からドルの相場を記憶しておき、宝石を評価す際にそのときの為替レートで円換算しています。宝石を持つと言う事はドルの資産を持つと同様な意味があると言えるでしょう。
次に、宝石は動産なので持ち運ぶことが出来ます。金も動産ですが金額が大きくなると持ち運びには不向きです。文頭のブルーダイヤモンドの金額を最近の金価格で計算すると約950キログラムになり、一般的な軽自動車より重いと言うことになります。それに比べ、15カラットのブルーダイヤモンドはグラム換算でたった3グラムです。一円玉三枚とほぼ同じ重量なにで携帯性は非常に高いのが分かります。
またダイヤモンドの名前の由来はギリシャ語の“アダマス adamas(征服されざるもの)であることこら分かるようにどんな物よりも硬く、どんな酸やアルカリ溶液にも冒されなく、耐久性はトップクラスです。但し、炭素の結晶なので火事のような高温には弱いため心配な方は耐火金庫やしっかりとした貸金庫に保管されることをお勧めします。
 元々宝石は身につけて美しさを楽しむのが基本ですが、様々な宝石の中で長期に保有すると資産として向くものと向かないものがあります。では、どのようなものが資産性が高いのでしょうか。
第一に、長く取引がされて歴史に裏付けられた伝統があるもの。その中で耐久性にかかわる硬度が高い物(注1)が上げられます。代表的なものはダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルドになります。さらに稀少性に影響するある程度の大きさ以上で特別な産地から産出されたもの、そして処理が殆ど施されていないことも条件です。カラーレスのダイヤモンドはカラー、クラリティも大事ですが予算の中で出来るだけ大粒のもの、出来れば3カラット以上がお勧めです。同じ予算ならラウンドよりサイズアップできるファンシーシェイプも良いでしょう。ブルーやピンクのファンシーカラーダイヤモンドは小さくてもとても高価なので1カラット以上を目指したいところです。ルビーはビルマ(ミャンマー)モゴック鉱山産で3カラットサイズ以上の無処理(注2)、サファイアでしたらカシミール産かビルマ産で5カラットサイズ以上の無処理、エメラルドでしたらコロンビア産ではやり5カラットサイズ以上の無処理か軽度な処理(注3)をお勧めしたいところです。
 宝石に添付されるレポートも世界に通用しなくてはなりません。クリスティーズやサザビーズ等の国際オークションのカタログに掲載されているものが基準となります。ダイヤモンドグレーディングレポートは4Cを発明した米国のGIAが独占しており、カラーストンの鑑別書はスイスのSSEFやGUBELIN、米国のAGL、GIAがよく使われています。もちろん英文表記です。
また資産性を考えた場合はどのレベルの価格で購入するかが将来の価値に影響します。流通マージンがそぎ落とされて価値が担保されているオークション等の仲介業者から購入するのも大切です。但し品質を見極める目が必要なので上級者向けでもあります。
宝石は株や貴金属の価格のように短期的なアップダウンはありませんので長く楽しんで後に確かな価値が残る資産として考えことが大切です。

参考:2014年12月22日に「インフレと宝石」と言う同じタイトルでブログを書きました。 

*画像はイメージです。


注1:ここでは「硬度の高い物」とはエメラルドのモース硬度7½以上と定義します。
注2:ルビー、サファイアの「無処理」とはNo Indication of Heating(加熱の痕跡を認めず)
注3:エメラルドの「無処理」とはNo Indication of Clarity Enhancement(透明度の改善を認めず)
「軽度な処理」とは透明度の改善の為の含浸処理の程度をMinor又はF1(より少ない)、Moderate又はF2(中くらいの)、Significant又はF3(著しい)の3段階にクラス分けしたMinor又はF1以上のもの

ジュエリーアドバイザーの仕事帖

Myanmar Mogok Ruby-silk inclusion Blog

「不純物を楽しむ」

 私にはシステム手帳に大事に挟み時折読み返している2つの新聞記事があります。
 一つはあるクラッシック愛好家の記事で、便利なCDからアナログのLPレコードに戻った経緯が書かれたもの。傷つかずサイズも小さくて扱いやすいと言うことでCDに切り替えたものの、CDの音は硬く、深みがなかった。なぜかというと、人間が聞こえない音を削り取っていった結果、音がクリアになりすぎて人工的に聞こえてしまうからだと指摘しています。「お酒からアルコールを取り出して、それに水を加えても元のお酒のコクがなくなって美味しくない。そのコクは不純物から来る。生演奏がすばらしいのも雑音を含め不純物がいっぱいあるからです。」と記事では解説しています。
Kashmir SA-fine dust line and sow flake like inclusion Blog

 もう一つはフルート製作の職人さんがフルートの名器を復活するエピソードです。試行錯誤を続けて技術的には遜色ない物ができあがりましたが、独特な豊かな響きがどうしても出ないで悩んでいました。あるとき素材の違いに原因があるのではと思い、純度の高い銀に代え当時の銀食器を溶かした銀を用いて作ったところ目指していた音が出たということです。昔の銀には不純物が多く含まれており、その不純物が豊かな音色を引き出していたのです。
Kashimir sapphire-velvety blue zoning and streamers Blog

 もうお気づきかと思いますが二つの記事の共通点は「不純物」。「不純物」が本物の味わいを導き出しています。例えば最近の商業ビルと古くからの商店街にある飲食店の違いにも近い物があります。新しい商業ビルのお店はどれも綺麗で洗練されていますが、どのビルのお店も似たような感じで人工的です。それに対し古くからの商店街のお店は様々で、店のたたずまい・店主・客・料理等々が良くも悪くもその店固有の特徴となり、そういう店が集まって街全体が生き生きとし、人はそこに引き付けられます。
Sri Lanka Sapphire-Zircon halo Blog
Sri Lanka Sapphire-Finger Print Blog

 大自然の創造物である宝石も一つとして完全なものはなく、不完全です。結晶時にまわりの環境を取り込んで唯一無二の特徴が出ます。一般的にインクルージョンと呼ばれるものもその一つです。もちろん過ぎたるは欠点になりますが、このインクルージョンがあることで魅力的な宝石が生まれるのも事実です。カシミールサファイアの微細なインクルージョンはコーンフラワーブルーと呼ばれる独特な乳白色のブルーになります。ビルマ(ミャンマー)産やスリランカ産サファアイの無処理のルビーやサファイアに特徴的なシルクインクルージョンは適度な量ならば透明度が高いのに優しさも併せ持つと言う一見矛盾した特徴を生みます。一方、宝石の世界において前述の記事のCDの音質や純粋な銀にあたるのが合成石です。合成石の純粋な結晶からは自然な優しさは感じられません。
宝石をお持ちの方は、あらためて手に取りじっくりながめて一つ一つが異なる美しさを楽しんでみてください。
Colombia Emerald Three-Phase Inclusions Blog


画像提供:Tokyo Gem Science
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