ジュエリーコンシェルジュ原田信之

原田信之 所有されているジュエリーの活用方法をアドバイスする株式会社ジュエリーアドバイザー アンド ギャラリー JAAG(ジャーグ)の代表のブログ。オークションの査定や百数十回に及ぶ宝石の海外買い付け、ジュエリーのプロデューサーとしての経験を生かして、相続や売却、資産性のある宝石の購入のアドバイスをします。

「どうなる?ダイヤモンド価格。」

ダイヤモンド価格増減表デビアスマーケットシェア水位表大

「2020年のダイヤモンド価格はどうなるの?」と言う問いかけにずばり答えることは株価や為替の予想のように難しいことです。しかし、過去のデータから傾向を掴むことは出来ます。(これからは表を参照)
 過去のダイヤモンド価格はデビアスの存在抜きには語ることができません。1990年ぐらいまでは原石販売のシェアは80%と正に独占状態でした。ダイヤモンド全体の価格を維持しプロモーションまで手がけて業界のGuardian(守護者)と呼ばれていました。
90年代にはいると91年にロシア連邦の崩壊が起こり、それまでは契約で殆どの原石をデビアス経由で販売していたロシア産原石が漏れ出し、1995年末には契約終了となり直接販売に切り替わりました。続くように96年7月には当時産出量で世界最大のリオティント傘下のアーガイル鉱山が離脱し、シェアも80%から60%に下落しました。98年には3グレーナー(0.75ct)以下の原石の価格維持はしない方針を打ち出し、ついには2000年7月に60年以上に渡るダイヤモンド価格維持政策を放棄することを公式に通知しました。ダイヤモンド価格は需給に任せると言うことです。それまで長い間急激な変化がなかったダイヤモンド価格は以降アップダウンを始めます。
 価格維持を放棄してから数年が経ったころから中国の経済バブルが始まり米国、欧州、日本の量的緩和政策も加わって稀少性の高い3カラット以上の大粒ダイヤモンドに需要が集中して2008年に価格は倍以上に跳ね上がりました。2008年9月に起きたリーマンショックで1-2割ダウンしてもすぐに戻り2011年から2014年頃まではデビアス時代の約3倍の高値の高原状態が続きました。
 2015年以降は中国経済の減速と米国の量的緩和政策終了もあって、大粒ダイヤモンドの価格もクールダウンしピークから2-3割安で現在に至っています。
 1カラット未満のダイヤモンド価格は2000年以降も殆ど変化がないか、むしろ値下がりしています。唯一0.01-0.03ctが2011年に1年で倍になったことがありましたが、これは中国でスイスの高級時計とブランドのジュエリーのバブルが起こったためです。最高品質のいわゆるメレーダイヤモンドが過去にない高値を示したものの2-3年で収束して元に戻っています。
 1880年代後半に80%を誇ったデビアスのシェアも2018年には約36%まで落ち込みました。とは言え離脱したロシアのシェア約30%と合わせて7割近くの寡占状態なのでプライスリーダーの地位は守り続けています。
 さて、本題の2020年のダイヤモンド価格の傾向はと言うと大粒ダイヤモンドの価格については相場の格言にある「山高ければ谷深し」で下落傾向は続いて着地点を探る相場となり、反対に山が殆どなかった1カラット未満の相場はフラットの相場になるのではないか思います。この予想はあくまでもドル建ての相場を前提としたもので日本での価格は為替相場を加味する必要があるので必ずしも一致しません。
また、このグラフはラウンドブリリアントの価格推移ですが、現在のところラウンド以外のファンシーシェイプはラウンドよりも割安で取引されています。しかし、実際の売買は同じグレードでも形の善し悪しで大きく差があります。いつか形の良いファンシーシェイプの稀少性にマーケットが気づけば価格も逆転して値動きも別なものになるかも知れません。
 例外はファンシーカラーダイヤモンドの一部です。濃くて彩度の高いピンクとブルーは記録的な高値を維持しています。カラーレスに比べて極端に流通量が少ないので、美しいものはしばらく高値が続くことが予想されます。
*サイズ別ダイヤモンド価格の増減表:ニューヨークのRAPAPORT社が発表しているダイヤモンド価格を元に作成
*De Beers Market Share 出典:PaulZimnisky.com

雑誌:JEWEL2020 NEW YEAR号の「ジュエリーアドバイザーの仕事帖」に掲載

あなたの知らないオークションの世界

オークション下見会会場small

 どうしたら宝石やジュエリーの善し悪しや相場が分かるようになるのだろうか。宝石店を回ってもショーケース越しに覗くのは勇気がいる。気になったものを試しに出してもらって手に取ったらいつの間にか買う羽目になっていた経験をした人にはトラウマだ。では講座を受ける?学校に入る?何れにしてもかなりの費用がかかる。
 費用が殆どかからない絶好の場所がある。それは宝石オークションの下見会だ。ネットオークションと異なりライブのオークションはオークション2、3日前に手に取ってジュエリーを見ることができる下見会が開催される。下見会には原則として誰でも入場することが出来る。下見会の良いところは販売の為ではなく純粋に下見なのでジュエリーを気軽にチェックすることが出来る点だ。それに一般の宝石店ではそれぞれのお店の格で品質は揃っているので比較は難しいが、オークションの下見会は品質が様々で、善し悪しの比較ができるのが特徴だ。
 下見会に参加するには、オークション会社に電話するかホームページから申し込んでカタログを入手することが第一歩。下見会の場所、日時を確認して、それまでにカタログをチェックする。お目当てのジュエリーを落札したい場合はそれだけをチェックすれば良いが、ジュエリーをより深く理解したい場合は全てのロットの写真と記載されているデータを丹念にチェックして出来るだけ多くの商品を下見会で手に取って確認したい。
 ここで大切なのは何でも良いから本気で買うことだ。金額は問わないが購入する目的を持つことで力がつく。例え欲しいものが無くても「掘り出し物」を探すだけでもいい。オークションの良いところは落札して手に入れた物も相場が変わらなければ原則として同じリザーブ価格(最低落札価格)で再度出品できることである。もし手に入れた同額で落札されれば手数料分はなくなるが勉強代としては安い物だ。一般の方でもオークションで手に入れて飽きたら再出品し、他のものを手に入れることを繰り返している上級者もいる。一定額をジュエリー購入に充てると考えれば、今はやりのサブスクリプション的な使い方だ。
 ここからは下見会に欠かせない七つ道具を紹介しよう。10倍のルーペ、ペンライト、紫外線ライト(ブラックライト)、ピンセット(ルース用)、ノギス(無ければ定規)、宝石用クロス(めがね拭きでもOK)、計算機。これらを宝石店に持ち込むことは失礼で出来ないが、下見会では問題ない。下見会は一般的に一日中行っていているので、時間を取ってじっくり見たい。

オークション下見会ディスプレイsmall

 まず、ショーケース越しに見てカタログの画像と比較する。オークションカタログの画像は実際の色や寸法に近くするのが基本だが最近は実物より良く見せる傾向があるので確認が必要だ。下見会場によるが自然光で見ることができるスペースが用意されているところは是非活用したい。特にスペースを設けていない会場でも気になるロットは係に窓辺でチェックしたい旨を伝えて見ることも可能だ。宝石は光源によって見え方が変わるので自然光、蛍光灯、白熱灯、LEDとで微妙に異なる。
 次に手に取って重量を確認する。重さから耐久性や装着性をチェックする。例えばブローチの重い物は要注意だ。日本は温暖化で服装が薄くなっているので重すぎるものは使えないことが多い。
 この後はルーペを使うので、事前に使い方をマスターしておこう。レンズを親指と人差し指で挟んで、ルーペのレンズにかかるかかからないかぐらいのところを中指で支える。ジュエリーを中指につけて覗くとピントが合う。10倍のルーペでは約指一本分が焦点距離だ。ジュエリーを宙に浮かせずルーペと中指で固定することがこつだ。焦点が合ったらルーペを出来るだけ利き目に近づけて視野を広げる。片目で作業を続けると疲れるので両目を開けて出来る訓練もしたい。
 ルーペが使えるようになったら、初めに刻印をチェックする。刻印情報を掲載しているカタログもあるが掲載されていない情報もあるので横着せずに自分で確認しよう。刻印には使われている貴金属の種類と品位、使われている宝石の石目方、メーカーやブランドのマークやシリアル番号等が打たれている。情報も大切だが丁寧に刻印されているかも重要だ。品質の高いジュエリーは刻印も綺麗なものが多いが、品質の低いジュエリーで刻印が綺麗なものは殆どない。メーカーの刻印は特定できなくても打たれていることでメーカー責任を取る姿勢が見えるのである物の方が比較的安心だ。白い地金はプラチナの場合とホワイトゴールドがあるが、ホワイトゴールドにはロジウムメッキが施されているので傷ついてメッキがはげる場合があることを承知しておきたい。ブローチやペンダントは傷むことが少ないので大柄なものはプラチナを避けて比重が軽いホワイトゴールドで作ることがある。
 紫外線ライトは簡易な鑑別に使えるので我々プロには必須だ。例えば、ダイヤモンドは蛍光を発するものが多く存在しており、稀にその中で特別に強いものが肉眼でも濁って見えることがある。蛍光の程度と肉眼で見たギャップを自分で確認してもらえば、殆どが影響のないことが分かる。そうすることでレポートにストロングブルーと記載があるだけで忌み嫌うことはなくなる。
 宝石の内部をルーペで拡大して善し悪しを見分けるのはプロの領域だが、表面の傷や内部に亀裂があるとか、宝石を留めている爪が浮いていて作りが不完全であるとか、一般の方でも分かることもあるので挑戦してもらいたい。その際にクロスで事前に汚れを拭いておくとゴミとの見間違いを防げる。
 石目方が分からなくともノギスや定規でダイヤモンドの縦横や直径を測ることで推定することができる。公式や早見表もあるのでステップアップしたい方は専門書を読むことをお勧めする。
 宝石は1カラット当たり幾らかが相場の基本になるので、例えばリザーブ価格(最低落札価格)をメインストンの石目方で割っても目安になるのでカタログに記入して品質や大きさとの関連性を見つけることも相場のヒントになる。
 今回はかなり専門的になったが、あまり肩肘張らずに出来るところから始めるぐらいで良いので、気軽に下見会に出向いてみよう。毎回必ず新たな発見があるはずだ。「習うより慣れよ」の精神で行ってみよう。

画像提供:毎日オークション

Brand Jewelry 2019 WINTER-2020 SPRING掲載

三越伊勢丹ジュエリー&ウオッチ カタログ2019-2020

三越伊勢丹ジュエリーカタログ2019-2020

三越伊勢丹ジュエリー&ウオッチ カタログ2019-2020でファンシーカラーダイヤモンドの魅力について語りました。
三越伊勢丹ジュエリーカタログ2019-2020原田信之P10

三越伊勢丹ジュエリーカタログ2019-2020原田信之P11

「アヒマディ博士の宝石学」−宝石を科学的に解説ー

アヒマディ博士の宝石学

宝石学会で世界に発信出来る数少ない日本人研究者のアヒマディ博士が待望の1冊を出版しました。
彼は宝石の鑑別・産地同定にレーザーICPMSを世界で初めて応用して後に同法は世界のラボの必須とした実績を持っています。

内容は筆者の序章の一文に凝縮されています。

「本書は、宝石を身に着ける贅沢品として紹介するのではなく、自然から生まれた美しい鉱物結晶として解説します。最も理解すべきは鉱物結晶学的な知識や、宝石科学的な特性、成長要因と産状、そして、世界的な名産地を多くの写真を使いながら紹介していきます。さらに、宝石名の由来や歴史、処理の有無、品質や選び方などについてもまとめました。」

普段、筆者がプロに説明している時に使う元素記号や専門用語は殆ど無く、一般の方にも分かり易い内容になっています。
特に実際に産地に赴いて採掘のフィールドワークをしているので最新の産地情報が豊富に掲載されています。
筆者のモットーは情報開示なので、宝石の処理についての情報量が豊富では一般向けの書籍としては踏み込んだ一冊と言えます。

宝石業界の方のみならず鉱物や宝石、自然が好きな方にもお勧めの一冊です。

アマゾンリンク「アヒマディ博士の宝石学」2019年8月26日発売

阿依 アヒマディ博士プロフィール
理学博士
Tokyo Gem Science社 代表
FGA(英国宝石学会卒業証)を持ち、宝石学ににおける研究、教育セミナー、宝石鑑別などの技術サポートを行っている。2002年に京都大学地球惑星科学専攻の博士課程を修了し、全国宝石学協会で研究主幹として活躍する。天然、合成及び処理の研究と鑑別を行う。2011年にGIAにに入社し2012年から2016年3月まで、GIA TokyoラボのSenior Scientist及びTokyoラボのSenior Managerとして勤務。
 17年間の研究活動を通じて、宝石の天然合成の鑑別、諸宝石の原産地同定の研究やLA-ICP-MS(レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析)法の宝石学における応用を開発。多数の学術論文を国内外の学術誌に発表し、Gems & Gemology学術誌のDr. Edward J. Gubelin Most Valuable Article Awardを二度受賞、各学術学会において数dの最優秀発表賞を授与される。

あなたの知らないオークションの世界

毎日オークション電話ビット

 片手に受話器を持った10人以上のスタッフが一斉にパドルを上げて注目のロットの競りが始まった。始まる前からざわついている会場にも買う気満々のバイヤーが揃っている。ロットは12カラットのマダガスカル産 無処理(加熱の痕跡無し)のリングだ。親指の爪ほどのやや丸いオーバルのサファイアからは美しい濃淡モザイク模様が湧き出ている。透明度が高く程よい明るさのブルーは優しさも兼ね備えたジェムクオリティだ。30万円と言う格安のリザーブ価格(最低落札価格)は多くのバイヤーの食欲を刺激するには十分だ。
 オークショニア(オークションを取り仕切る人)がリザーブ価格の30万円からスタートしようとしたとき会場の中の海外のバイヤーから一気に250万円の声が上がった。気の短いバイヤーが時間短縮と格安で買おうとしていたバイヤーを振り払うための心理戦でもある。これでバイヤーは一気に3分の1ぐらいの数に落ち着いた。このように人気のあるロットはこれからが結構長い。案の定、会場にいるバイヤーと電話で参戦しているバイヤーのバトルが始まる。260万円、270万円、280万円と会場と電話の争いが続く。ここで会場に残っていた最後のバイヤーが降りた。決戦は残った電話の2人に絞られた。こうなるとオークショニアは丁寧に時間をかける。一声10万円ずつ競り上げるが、簡単にはハンマーは打たない。290万円、300万円と上がっていく。電話の1人は予算に余裕があるのか、競争相手がビットするとすぐに応戦する。もう1人は1回毎に検討する時間が長くなる。始まってから3分以上が経過している。通常このオークションでは、そこそこ競るロットでも1分以内なので長期戦だ。更に310万円、320万円、330万円と一声毎にオークショニアが防戦している方に「まだ競りますか?」と声をかけるが検討する時間がさらに長くなる。絞り出すように、340万、350万とパドルを上げるが、もう1人が直ぐに360万円と追ってきたところで遂に力尽きた。30万円のリザーブ価格のロットは最終的に360万円で落札された。
 この日のオークションは普段と違う空気が流れていた。平成から令和に変わる異例の10連休の初日に行われたために、いつもは会場に来ていた日本在住の外国人バイヤーも長い休みを故郷で過ごすため自国から電話で参加していた。いつもにも増して電話同士の争いが目立ったのはこのためだ。電話の場合、オークション会社のスタッフが現在の価格をバイヤーに伝えるが、現場の状況は想像するしかない。電話での参加は会場より冷めた目で見ることが出来る人も多いが、相手が見えないことでより熱くなる人が少なからずいる。そのような人が最後に2人残ると大変だ。「幾らで買う」より「勝負に勝つ」に変わってシーソーゲームの様相になる。
 シーソーゲームの結末が時計のように同じモデルの現行価格より高くなると残るのは後悔しかないが、一つ一つが異なる宝石では買い手によって適正価格もまちまちで、最終的な勝ち負けが曖昧なので救われる。間違いなく誰よりも高く出した結果が落札だが競争相手の多寡や強弱は時の運でもある。相場だけで決まらないのがオークションの怖さでもあり、魅力でもある。
 最後にこれを読んでオークションに恐れを抱いた皆さんに本田宗一郎さんの言葉「チャレンジして失敗を恐れるよりも何もしないことを恐れろ」を贈りたい。

Brand Jewlry 2019SUMMER-AUTUMN掲載
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原田信之

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