ジュエリーコンシェルジュ原田信之

原田信之 所有されているジュエリーの活用方法をアドバイスする株式会社ジュエリーアドバイザー アンド ギャラリー JAAG(ジャーグ)の代表のブログ。オークションの査定や百数十回に及ぶ宝石の海外買い付け、ジュエリーのプロデューサーとしての経験を生かして、相続や売却、資産性のある宝石の購入のアドバイスをします。

家庭画報チャネルに出演!

家庭画報チャネル

11月の家庭画報チャネルに出演します。
宝石の「美しさ」と「価値」について原田信之が本音で話します。有料ですが、本当の事を知りたい方は是非ご視聴ください。

詳細は画像のQRコードを開いてください。

ジュエリーアドバイザーの仕事帖

「受け継ぐ人に喜ばれること」

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パープルサファイアリング鳥瞰 twitter S

 深紅のリングケースを開けると見たことのない美しい紫の大粒の宝石が出現しました。この手の紫の宝石は多くありません。代表的にはアメシストですが、この輝きは違います。直感的に屈折率が高いサファイアが浮かびましたが、今まで見た紫のサファイアはこんなに透明度が高くありません。胸の高まりを抑えてルーペで覗くとインクルージョンから紛れもないサファイア、しかもスリランカ産の無処理(加熱の痕跡無し)であることを確信しました。
 息を呑む美しさに暫く言葉を発することが出来ませんでした。「凄い品質ですね。」とプロらしからぬ率直な感想が出てしまいました。紫の色相には赤味のパープルから青味のバイオレットまで幅がありますが、これは真ん中より少しだけ赤味がある紫です。紫外線ライトを当てると真っ赤な蛍光を発するのでルビーの着色因子のクロムを含有していることが分かりました。スリランカ産のカラーチェンジサファイア(注1)によくある特徴です。紫外線を含む自然光下でより生き生きする現象はビルマ産のルビーに似ています。宝石の品質で最も重視されるサイズ(重量)でも12カラットと十分で、三味線の胴の様なクッションシェイプも時代を超えて人気の形です。
パープルサファイアリング側面

 このサファイアリングはあるご家族から相続の相談で持ち込まれていました。相続されたご兄弟のお母様の持ち物で、私が勤務している諏訪貿易株式会社の前身(注2)から約80年前に購入されたものの一つでした。他にもまるで浮世絵のような繊細で品のある帯留め、オールドカットのダイヤモンドソリテールリング等がありましたが、どのジュエリーもセンスが良くプロが個人的に欲しくなるものばかりです。このサファイアリングのデザインも指に着けた時に大粒であることを感じさせない洗練されたものです。古いジュエリーは現代的にリモデル(作り替え)することが殆どですが、このリングは作り替えてもこれ以上に出来るとは思えない完成度が高いものです。
 私の会社は「受け継ぐ人に喜ばれること」をモットーに目利きになって良いものだけを扱うことを理念としています。このリングケースの内側には「東京 諏訪製 電京816」と印刷されていました。「電京」とは電話 京橋局の略で後に続く3桁の電話番号で時代の古さが分かります。思いがけず先人の仕事に出会って純粋に畏怖の念を抱き、未熟を自覚し更なる精進を心に期しました。
諏訪ケース内側

 サファイアリングはより多くのプロや愛好家に評価してもらいたいので国際オークションに出品することにしました。世界中の人達によってどのような評価が下されるのか楽しみなところです。品質の高い宝石は資産になることを多くの人に実感してもらうことが私の喜びです。
 
(注1)典型的なカラーチェンジサファイアは自然光又は蛍光灯下ではブルーからバイオレット(青紫)で、白熱灯ではパープル(赤紫)に変化します。
(注2)1908年(明治41年)創業

ジュエリーアドバイザーの仕事帖

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「大自然に恐れ入る。」

 いつものように石を蛍光検査用の紫外線照ボックスにいれてスイッチを押しました。「えっ、赤い!」 宝石は2.5カラットサイズのピンクダイヤモンド。その石をチェックしている時に物語は始まりました。天然のピンクダイヤモンドの蛍光は通常青色です。肉眼とルーペの拡大で天然のピンクを確信していたので、赤色の蛍光に一瞬で体に緊張が走りました。赤色の蛍光は放射線照射処理の特徴です。この処理のカラーダイヤモンドは天然ではレアなほど濃い色が一般的ですが、このダイヤモンドは上品なうっすらピンクです。もしかしたら*全ての天然ピンクダイヤモンドのうち約0.5%しかないと言われている「*ゴルコンダピンク」なのでは。天然のピンクダイヤモンドは塑性変形と言う格子結晶のゆがみが発色の原因です。一方「ゴルコンダピンク」は稀少な*Type況織瀬ぅ筌皀鵐匹涼罎任癲*NVセンター」と呼ばれる欠陥からピンク色を発します。そしてその蛍光は赤色です。後の検査で「ゴルコンダピンク」であることが判明し、緊張と不安が期待と喜びに変わり満たされた結果となりました。
2.59ct Light Pink IF from side small

2.59ct Light Pink IF under UV small

 ピンクダイヤモンドと同時期に不思議なエメラルドにも出会いました。「えっ、合成?」今度はあるエメラルドをルーペで見ている時に始まりました。透明度が非常に高い少し淡いグリーンのエメラルドです。その内部を覗いていると見たことのないインクルージョンが直ぐに目に入ってきました。まっすぐ引いた直線の上に×(バツ)が整然と並んでいて、横から見ると綺麗な螺旋を描いています。とても自然に出来たものに見えず、まずは合成エメラルドを疑いました。エメラルドに付きものの亀裂も殆どなく、もちろんオイルや樹脂の含浸の痕跡も見えないので尚更怪しい。会社のジェモロジストと一緒に穴が空くほど眺めていると、どこかで見た覚えがある気がしてきました。暫くすると、ジェモロジストが*宝石インクルージョンの写真集の中から探し出しました。「そう、これこれ。」それはコロンビア産エメラルドの特徴の一つの「*ヘリカルインクルージョン」と言われるものでこのように綺麗な螺旋を描くのは極稀であることがわかりました。殆ど亀裂がない3.5カラットサイズのエメラルドは後にコロンビア産No Indication of Clarity Enhancement(透明度改善の痕跡を認めず)の無処理の鑑別結果を得ることになりました。
Herical Inclusion face up

Herical Inclusion from side 2

 同時期に稀少なタイプのピンクダイヤモンドと稀少なインクルージョンを持つエメラルドに出会ったのも運命と思い、二つを使ってトワエモアタイプ(toi et moi)のリングに仕立ててみました。大自然の創造した宝石は人智の及ばない存在であることを改めて思い知らされました。


*全ての天然ピンクダイヤモンド
GIAのカラーダイヤモンドレポートのデータベースにある全ての天然ピンクダイヤモンド
*ゴルコンダピンク
有名なインドのゴルコンダと必ずしも関係があるとは言えない。
*Type況織瀬ぅ筌皀鵐
殆どのダイヤモンドは僅かに窒素を含んでいる(Type機法機器で検出できない殆ど窒素を含まない純粋な炭素の結晶に近いタイプのダイヤモンドで全体の2-3%と言われている。
*N+V(NVセンター)
格子内の窒素原子に隣接する炭素原子の欠落による欠陥。

*ヘリカルインクルージョン
Hericalとは螺旋を意味する。Spiral Inclusionとも。
*宝石インクルージョンの写真集
「宝石 小宇宙を科学する機彁崚捗濟卉 全国宝石学協会出版

「どうなる?ダイヤモンド価格。」

ダイヤモンド価格増減表デビアスマーケットシェア水位表大

「2020年のダイヤモンド価格はどうなるの?」と言う問いかけにずばり答えることは株価や為替の予想のように難しいことです。しかし、過去のデータから傾向を掴むことは出来ます。(これからは表を参照)
 過去のダイヤモンド価格はデビアスの存在抜きには語ることができません。1990年ぐらいまでは原石販売のシェアは80%と正に独占状態でした。ダイヤモンド全体の価格を維持しプロモーションまで手がけて業界のGuardian(守護者)と呼ばれていました。
90年代にはいると91年にロシア連邦の崩壊が起こり、それまでは契約で殆どの原石をデビアス経由で販売していたロシア産原石が漏れ出し、1995年末には契約終了となり直接販売に切り替わりました。続くように96年7月には当時産出量で世界最大のリオティント傘下のアーガイル鉱山が離脱し、シェアも80%から60%に下落しました。98年には3グレーナー(0.75ct)以下の原石の価格維持はしない方針を打ち出し、ついには2000年7月に60年以上に渡るダイヤモンド価格維持政策を放棄することを公式に通知しました。ダイヤモンド価格は需給に任せると言うことです。それまで長い間急激な変化がなかったダイヤモンド価格は以降アップダウンを始めます。
 価格維持を放棄してから数年が経ったころから中国の経済バブルが始まり米国、欧州、日本の量的緩和政策も加わって稀少性の高い3カラット以上の大粒ダイヤモンドに需要が集中して2008年に価格は倍以上に跳ね上がりました。2008年9月に起きたリーマンショックで1-2割ダウンしてもすぐに戻り2011年から2014年頃まではデビアス時代の約3倍の高値の高原状態が続きました。
 2015年以降は中国経済の減速と米国の量的緩和政策終了もあって、大粒ダイヤモンドの価格もクールダウンしピークから2-3割安で現在に至っています。
 1カラット未満のダイヤモンド価格は2000年以降も殆ど変化がないか、むしろ値下がりしています。唯一0.01-0.03ctが2011年に1年で倍になったことがありましたが、これは中国でスイスの高級時計とブランドのジュエリーのバブルが起こったためです。最高品質のいわゆるメレーダイヤモンドが過去にない高値を示したものの2-3年で収束して元に戻っています。
 1880年代後半に80%を誇ったデビアスのシェアも2018年には約36%まで落ち込みました。とは言え離脱したロシアのシェア約30%と合わせて7割近くの寡占状態なのでプライスリーダーの地位は守り続けています。
 さて、本題の2020年のダイヤモンド価格の傾向はと言うと大粒ダイヤモンドの価格については相場の格言にある「山高ければ谷深し」で下落傾向は続いて着地点を探る相場となり、反対に山が殆どなかった1カラット未満の相場はフラットの相場になるのではないか思います。この予想はあくまでもドル建ての相場を前提としたもので日本での価格は為替相場を加味する必要があるので必ずしも一致しません。
また、このグラフはラウンドブリリアントの価格推移ですが、現在のところラウンド以外のファンシーシェイプはラウンドよりも割安で取引されています。しかし、実際の売買は同じグレードでも形の善し悪しで大きく差があります。いつか形の良いファンシーシェイプの稀少性にマーケットが気づけば価格も逆転して値動きも別なものになるかも知れません。
 例外はファンシーカラーダイヤモンドの一部です。濃くて彩度の高いピンクとブルーは記録的な高値を維持しています。カラーレスに比べて極端に流通量が少ないので、美しいものはしばらく高値が続くことが予想されます。
*サイズ別ダイヤモンド価格の増減表:ニューヨークのRAPAPORT社が発表しているダイヤモンド価格を元に作成
*De Beers Market Share 出典:PaulZimnisky.com

雑誌:JEWEL2020 NEW YEAR号の「ジュエリーアドバイザーの仕事帖」に掲載

あなたの知らないオークションの世界

オークション下見会会場small

 どうしたら宝石やジュエリーの善し悪しや相場が分かるようになるのだろうか。宝石店を回ってもショーケース越しに覗くのは勇気がいる。気になったものを試しに出してもらって手に取ったらいつの間にか買う羽目になっていた経験をした人にはトラウマだ。では講座を受ける?学校に入る?何れにしてもかなりの費用がかかる。
 費用が殆どかからない絶好の場所がある。それは宝石オークションの下見会だ。ネットオークションと異なりライブのオークションはオークション2、3日前に手に取ってジュエリーを見ることができる下見会が開催される。下見会には原則として誰でも入場することが出来る。下見会の良いところは販売の為ではなく純粋に下見なのでジュエリーを気軽にチェックすることが出来る点だ。それに一般の宝石店ではそれぞれのお店の格で品質は揃っているので比較は難しいが、オークションの下見会は品質が様々で、善し悪しの比較ができるのが特徴だ。
 下見会に参加するには、オークション会社に電話するかホームページから申し込んでカタログを入手することが第一歩。下見会の場所、日時を確認して、それまでにカタログをチェックする。お目当てのジュエリーを落札したい場合はそれだけをチェックすれば良いが、ジュエリーをより深く理解したい場合は全てのロットの写真と記載されているデータを丹念にチェックして出来るだけ多くの商品を下見会で手に取って確認したい。
 ここで大切なのは何でも良いから本気で買うことだ。金額は問わないが購入する目的を持つことで力がつく。例え欲しいものが無くても「掘り出し物」を探すだけでもいい。オークションの良いところは落札して手に入れた物も相場が変わらなければ原則として同じリザーブ価格(最低落札価格)で再度出品できることである。もし手に入れた同額で落札されれば手数料分はなくなるが勉強代としては安い物だ。一般の方でもオークションで手に入れて飽きたら再出品し、他のものを手に入れることを繰り返している上級者もいる。一定額をジュエリー購入に充てると考えれば、今はやりのサブスクリプション的な使い方だ。
 ここからは下見会に欠かせない七つ道具を紹介しよう。10倍のルーペ、ペンライト、紫外線ライト(ブラックライト)、ピンセット(ルース用)、ノギス(無ければ定規)、宝石用クロス(めがね拭きでもOK)、計算機。これらを宝石店に持ち込むことは失礼で出来ないが、下見会では問題ない。下見会は一般的に一日中行っていているので、時間を取ってじっくり見たい。

オークション下見会ディスプレイsmall

 まず、ショーケース越しに見てカタログの画像と比較する。オークションカタログの画像は実際の色や寸法に近くするのが基本だが最近は実物より良く見せる傾向があるので確認が必要だ。下見会場によるが自然光で見ることができるスペースが用意されているところは是非活用したい。特にスペースを設けていない会場でも気になるロットは係に窓辺でチェックしたい旨を伝えて見ることも可能だ。宝石は光源によって見え方が変わるので自然光、蛍光灯、白熱灯、LEDとで微妙に異なる。
 次に手に取って重量を確認する。重さから耐久性や装着性をチェックする。例えばブローチの重い物は要注意だ。日本は温暖化で服装が薄くなっているので重すぎるものは使えないことが多い。
 この後はルーペを使うので、事前に使い方をマスターしておこう。レンズを親指と人差し指で挟んで、ルーペのレンズにかかるかかからないかぐらいのところを中指で支える。ジュエリーを中指につけて覗くとピントが合う。10倍のルーペでは約指一本分が焦点距離だ。ジュエリーを宙に浮かせずルーペと中指で固定することがこつだ。焦点が合ったらルーペを出来るだけ利き目に近づけて視野を広げる。片目で作業を続けると疲れるので両目を開けて出来る訓練もしたい。
 ルーペが使えるようになったら、初めに刻印をチェックする。刻印情報を掲載しているカタログもあるが掲載されていない情報もあるので横着せずに自分で確認しよう。刻印には使われている貴金属の種類と品位、使われている宝石の石目方、メーカーやブランドのマークやシリアル番号等が打たれている。情報も大切だが丁寧に刻印されているかも重要だ。品質の高いジュエリーは刻印も綺麗なものが多いが、品質の低いジュエリーで刻印が綺麗なものは殆どない。メーカーの刻印は特定できなくても打たれていることでメーカー責任を取る姿勢が見えるのである物の方が比較的安心だ。白い地金はプラチナの場合とホワイトゴールドがあるが、ホワイトゴールドにはロジウムメッキが施されているので傷ついてメッキがはげる場合があることを承知しておきたい。ブローチやペンダントは傷むことが少ないので大柄なものはプラチナを避けて比重が軽いホワイトゴールドで作ることがある。
 紫外線ライトは簡易な鑑別に使えるので我々プロには必須だ。例えば、ダイヤモンドは蛍光を発するものが多く存在しており、稀にその中で特別に強いものが肉眼でも濁って見えることがある。蛍光の程度と肉眼で見たギャップを自分で確認してもらえば、殆どが影響のないことが分かる。そうすることでレポートにストロングブルーと記載があるだけで忌み嫌うことはなくなる。
 宝石の内部をルーペで拡大して善し悪しを見分けるのはプロの領域だが、表面の傷や内部に亀裂があるとか、宝石を留めている爪が浮いていて作りが不完全であるとか、一般の方でも分かることもあるので挑戦してもらいたい。その際にクロスで事前に汚れを拭いておくとゴミとの見間違いを防げる。
 石目方が分からなくともノギスや定規でダイヤモンドの縦横や直径を測ることで推定することができる。公式や早見表もあるのでステップアップしたい方は専門書を読むことをお勧めする。
 宝石は1カラット当たり幾らかが相場の基本になるので、例えばリザーブ価格(最低落札価格)をメインストンの石目方で割っても目安になるのでカタログに記入して品質や大きさとの関連性を見つけることも相場のヒントになる。
 今回はかなり専門的になったが、あまり肩肘張らずに出来るところから始めるぐらいで良いので、気軽に下見会に出向いてみよう。毎回必ず新たな発見があるはずだ。「習うより慣れよ」の精神で行ってみよう。

画像提供:毎日オークション

Brand Jewelry 2019 WINTER-2020 SPRING掲載
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