ここに大正末期に作られた「刻印調書」という一枚の書類があります。
「刻印」とはジュエリーに打ち込むメーカーや販売店のマークです。
しかし、「調書」とはなんとも厳しい言葉です。
東京の組合がつくったものでジュエリーの製造や小売の屋号、代表者、住所が明記されて一番上に刻印が記されています。
どうやら、登録された「刻印」の一覧表のようです。
現存する会社のルーツも幾つかあります。
よく見ると何やら会則のような文書が付いています。
驚いたことに金と銀の品位の製造者責任を明確にするためにメーカーの打刻を必須として不正をした者には罰則まで設けている内容です。
これを作った人が「調書」とした決意を感じます。
80年以上前に責任の所在を明らかにしようとしたことに感動しました。
残念なことに、この刻印制度は長く続きませんでした。
戦争の足音が聞こえると国の検定制度に移行しなくなってしまいました。
現在もメーカー打刻がないジュエリーが大半を占めています。
ジュエリーは、還流して長く使われます。
還流している間に保証書等の付属品の多くはなくなります。
メーカー打刻が品質の拠り所になります。
今こそ、打刻の重要性を認識することが大切です。
以下に、原文を記します。
当時の漢字は現在のものに置き換えています。
附記
1.金位を表示せる製品に対しては組合刻印を打刻いたします。
2.製品に組合の刻印を打刻する場合は其の責任を明らかにするため表記自家の刻印を併せて打刻することに定めてあります。
3.前項に対して不正の行為をなしたる者には組合は罰則を設けて懲戒することを定めてあります。
以上の如く組合員の製品は各自責任を以って製作せられて居ります。
かつて本組合は貴金属品金性検定制度の設定に就いて全国の同業者と相謀りて政府及帝国議会に請願してその協賛を経ましたが爾来これが実現に就いて全国的に該制度の統一を期することに最大の努力を致して居ります。
組合刻印
金製品に併用す
銀製品に併用す
資料提供:日本宝飾クラフト学院