ジュエリーコンシェルジュ原田信之

原田信之 所有されているジュエリーの活用方法をアドバイスする株式会社ジュエリーアドバイザー アンド ギャラリー JAAG(ジャーグ)の代表のブログ。オークションの査定や百数十回に及ぶ宝石の海外買い付け、ジュエリーのプロデューサーとしての経験を生かして、相続や売却、資産性のある宝石の購入のアドバイスをします。

2013年08月

GIA Tokyoがもたらす国際化 (3)

○鑑別レポートビジネスに力を入れ始めたGIA

4Cの創始者としてダイヤモンドグレーディングにおいてはで揺るがない地位を築いてきたGIAも鑑別レポートの発行ではスイスのラボの後塵を拝していました。
転機はGIA Munbaiの開業でした。

ダイヤモンドの研磨地として圧倒的なシェアを握っているインドのダイヤモンド取引の中心地Munbaiに大規模なラボを作ったことが大成功して経営基盤が磐石になったことがカラーストン研究への投資を可能にしました。
もともと本国では高度の研究がなされ機関紙Gem & Gemorogyで定期的に論文を発表してきましたが、レポートビジネスには直接結びついていませんでした。

積極的に世界各地の鉱山で原石のサンプルを収集して一元管理しています。
データはサーバーに一括保存され必要に応じて照らし合わすことが出来ます。
鑑別においてサンプルは多いほど精度が高くなります。
特に産地の同定においてはより重要です。
豊富な資金を元にした組織的なフィールドワークがGIAを鑑別においてもトップブランドにする日は遠くないかも知れません。

GIAラボは現在米国以外でカラーストーン鑑別のラボがあるのはバンコクと東京だけです。
カラーストンの集荷地でもない東京にカラーストンのラボが出来たのはひとえにアヒマディ博士の存在によります。

ご存じない方のためにアヒマディ博士の略歴をご紹介します。

アヒマディ博士




アヒマディ博士は中国新疆ウイグル自治区出身で北京大を卒業し、京都大学の理学研究科の地球惑星科学専攻で博士号を取得しました。
その後、今は無き全国宝石学協会でダイヤモンド、カラーストーンと真珠などの研究に従事し、レーザーアブレーションICP−MS分析装置による微量成分から宝石の原産地判別する新たな鑑別方法を生み出したパイオニアです。
研究結果は多数の国際会議で発表され、今では世界レベルのラボでは欠かせない鑑別技術になっています。

博士の存在がGIAを動かして東京に鑑別のラボを作らせました。
私はこの幸運に感謝します。

また、GIA Tokyoラボでカラーストーン鑑別のために採用された社員は博士号を取得して英語が堪能なことが条件です。
1台数百万円から数千万円の機器を揃えて、ポテンシャルのある職員が世界中から集められて豊富なデータに基づいて行う鑑別を想像してください。
期待せずにはいられないでしょう。

今後もGIA Tokyoの活躍に注目していきます。





GIA Tokyoがもたらす国際化 以上。




GIA Tokyoがもたらす国際化 (2)

GIA Tokyoの主なサービス

<ダイヤモンドサービス>

○ダイヤモンドグレーディング
・Diamnd Grading Report(ダイヤモンド グレーディングレポート)
 3カラット未満は東京支店で作成
 3カラット以上受付のみ。作業はニューヨーク。
 プロット付き報告書

・Diamond Dossier(ダイヤモンド ドシエ)
2カラット未満限定簡易レポート。東京支店で作成。
 プロットが無い代わりにガードルにレポート番号レーザー刻印
 日本で流通しているダイヤモンドレポートの内容に近いもの。

○カラーダイヤモンドレポート 
Colored Diamond Report
ファンシーカラーのダイヤモンドレポート
東京支店は受付のみ。作業はニューヨーク。

GIAのサービスで圧倒的に使われているのはこのダイヤモンドサービスです。
しかしGIA Tokyoにおいてのレポートの大量依頼は望めないかも知れません。
流通の要所であるムンバイ、香港、バンコク、ニューヨークには既にGIAがあるので必要なダイヤモンドは現地で作成されているからです。
重要な集荷地であるアントワープには支店はありませんが、受付会社があり毎日のように出入荷があります。
日本でのレポート需要は既に日本のレポートがついている流通在庫や還流品の取り直しがメインになるかも知れません。


<鑑別サービス>

○鑑別レポート
・鑑別と処理の有無と程度の判定
・ルビー、サファイア、エメラルド、トルマリンの原産地判定
東京支店で作成
(現在は訓練期間中のためバンコク支店で作業。来年からの本格稼動を予定)


○品質保証レポート
依頼された情報についてのみ詳細が記載される。
10個までをは同一料金。
例)ルビー、サファイアの加熱の有無。エメラルドの含侵の有無と程度。
個別のレポートを作成する前の選別に便利。
東京支店で作成
(現在は訓練期間中のためバンコク支店で作業。来年からの本格稼動を予定)

私はGIAの鑑別サービスが日本では重要になると見ています。
現在日本では世界標準の鑑別レポートを作成しているラボはありません。
もっとも殆どのレポートは日本語表記のみなので通用するはずもありません。
決定的な違いは情報に関する基本姿勢です。
欧米の主なラボは鑑別の白黒をはっきりさせようとします。

例えば、日本のラボでルビーの鑑別レポートを作成すると。
個別の結果は問わず「通常、色の改善を目的とした加熱が行われています」の記載となります。

GIAのレポートでは以下のような表記になります。
Indications of heating with residues in fissures.
(加熱の痕跡と亀裂に残留物を認める)
又はNoindication of heatingになります。
(加熱の痕跡無し)
*残留物とは加熱の際に保護のために使うborax(硼砂)が融けてガラス状になり亀裂に残ったもの
加熱処理されたものの多くにはこの残留物が残るのでこの記述がされるものが多くなります。
更に要望があれば、原産地の同定もされます。


エメラルドの場合も日本のラボでは「通常、透明度の改善を目的とした無色透明材の含浸が行われています。」になりますが、
GIAでは「含侵の痕跡を認める」の表記になります。
含侵の程度も「僅かな」、「中程度の」、「著しい」に分けられます。
勿論、無処理の場合は「含侵の痕跡無し」と判定されます。


<パールサービス>

○鑑別レポート
起源(天然、養殖及び有核・無核の判別)
母貝(判定可能な場合)
環境(海水、淡水)
検出可能な改変処理の有無


パールサービスもカラーストンの鑑別レポートと同じです。
上記の項目で判断が可能な物は全て記載されます。
但し、ハナダマであるか否かのような表記はありません。


続く。

GIA Tokyoがもたらす国際化 (1)

GIA

業界に気を使って昨年末にひっそりとスタートしたGIA(Gemological Institute of America)の東京支店。半年以上が経った今、業界にどんな影響があり、またこれからどんな影響があるか考えて見ます。

まず、日本におけるグレーディングレポートの歴史的背景から見ていきましょう。

GIAは「4C」で知られるDiamond Gradingを考案し自らの専門学校を通じてそのシステムを広めました。
日本でもAGTジェムラボラトリーがGIAより委任を受けてGIAの分校 GIA Japanを運営しています。
結果、4Cによるダイヤモンドのグレーディングが世界標準となりました。

Daiamond Gradaing ReportはGIA以外のローカルなラボでも発行していますが、Christie'sやSotheby'sの国際オークションで唯一通用するのは本家のGIAのレポートだけと言うのは以外に知られていません。
また欧米のブランド宝飾店でも殆どの大粒ダイヤモンドにはGIAのレポートをつけて販売しています。

では何故日本ではGIAのレポートは広まらなかったのでしょうか。

主な理由は費用と時間です。
GIAのレポートを取る場合は日本に支店がなかったので米国までの発送代と保険料を負担しなくてはなりませんでした。
ダイヤモンドは高価なので、それなりの便を使いますので送料だけで10万円以上は珍しくありません。
それに加えてお国柄から作業に時間がかかります。
1ヶ月以上待たされることも珍しくありません。
また海外ではグレーディングレポートがつけられるのは主に1カラット以上に限られていましたが、日本ではブライダル用の0.3カラット前後に需要が集中しています。
GIAは1カラット未満のレポート需要はあまり想定していなかったので、そのサイズだけ特別に安く設定していませんでした。
小さいサイズに送料と時間をかけてGIAのレポートを取ることは想定外でした。
また、日本では百貨店がジュエリー販売のリーダーで、それぞれの百貨店が幾つかの国内ラボを指定していた事とGIAが英語表記のみと言うことも参入の障壁になっていました。
更に日本のレポートは発行元が○○協会と公の機関のような社名に社印が押されて、立派なカバーがつけられていることも日本人の価値観に合っていたのでしょう。

続く。

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