Mainichi Auction 420X260

「オークションで考える宝石の資産性」
 「こちらのピンクダイヤモンドは人気がありますので3億円からはじめましょうか。」
オークショナーの一言に会場と電話でのビットによって10数本のパドルが一斉に上がりました。3億1千万円、3億2千万円、3億3千万円と1千万円ずつせり上がり1分後には4億円の大台に乗りました。このあたりから競り手が絞られてきました。数人の電話でのビットに対し会場で参加している中華系のご婦人が受けて立つという状況に変わりました。4億1千万円、4億2千万円と上がり続けるビットにもこのご婦人は間髪入れずに応戦して降りる気配がありません。4億5千万円を超えたあたりから電話側の考える時間が増えてきました。一方ご婦人は絞り出されたビットにも全く動じず、直ぐにパドルを上げてきます。価格はついに5億円を超え電話のビットは更にペースダウン。5億1千万円、5億2千万円とこの辺りまではどうにか付いてきましたが、5億3千万円に達するとピタリと止まりました。オークショナーが5億3千万円を連呼して電話側のビットを促す時間が続きます。ビットしてもビットしても下りない相手に電話の主からの徒労感が固唾をのんで見守る会場内にも伝わってくるかのようです。沈黙が1分ほど続きついにオークショナーからラストコールがかかりました。「皆さん下りていますね。」「5億3千万円、会場のお客様が落札です。」会場から拍手が湧き上がり、落札者を祝福してこの競りは終了しました。
kjj2022_06_29_IMG_8471

 私が知る限り5億3千万円という金額は、日本のジュエリーオークション史上の最高額となります。今回この額をたたき出したピンクダイヤモンドのGIA のレポートには6.11カラット、モディファイドペアーシェイプブリリアントカット、Fancy Intense Pink VS2 Typeaと記載されています。しかし、このデータだけではこの宝石の持つ美しさは正しく伝わりません。ルースの先端が丸く研磨されているのでペアー(洋ナシ)というより卵形の方が分かりやすいかと思います。最近はガードルの下にプリンセスカットのような細かいファセットをつけて色だまりを作り、色を濃く見せるカットが主流なのですが、このピンクダイヤモンドはスタンダードなブリリアントカットである事、キュレットの形状、欠けやすい尖った部分を丸く仕上げたカッターの見識注)などから見て少なくとも50年以上前に研磨されたと想像できます。色相も多くのピンクダイヤモンドがFancy Purplish Pinkなのに対してFancy Pink、いわゆるストレートピンクなので稀少性が高くなります。色の濃さもIntenseとファンシーカラーの中では十分な明度です。日本人には「綺麗な桜色」と言うと想像しやすいと思います。クラリティのVS2もガードル周りの白いフェザー(羽状内包物)によるもので美しさを損なわず天然の特徴と言えるため購入を妨げる類のものではありません。
6.11ct PS Fancy Intense Pink VS2 GIA Report

 落札価格は日本円にして5億3千万円、これをオークション時の為替145円で計算すると約3.7百万米ドルとなります。仮にこのダイヤモンドが今年の初めに開催されたオークションにでていたとします。当時の為替は110円近辺ですから、落札価格は4億円程度となったでしょうか。出品者にとっては円安の恩恵で1億3,000万円も増えた計算です。宝石はドル建てで取引される商品ですから、ドル資産となって自国通貨安の時にはドル預金のような効果を発揮します。
50年前の1970年代前半、ダイヤモンドの相場は安く、特にファンシーカラーダイヤモンドの相場は現在の10分の1以下ほどでした。もしその頃にこのピンクダイヤモンドを日本の方が購入されていたとしたなら、固定相場で為替308円であったことやその後の為替の変動を差し引いても十分にお釣りのくる資産性を発揮したと言えるでしょう。
稀少性の高い宝石は、何より身につけて美しさを楽しみ、長期的には資産にもなり得る事を今回のオークションは教えてくれているのではないのでしょうか。
6.11ct PS Fancy Intense Pink VS2 discription

注)この卵形の先端に爪を掛けると尖ったように見えるので、視覚的にはペアーシェイプと同様になります。ダイヤモンドの保護を考慮したカッターの見識。