先日、ある宝石店さんが倒産しました。
その名前を聞いて、24年前の体験が昨日のように蘇りました。

大学を卒業したての私が現在の会社に入って間もない頃のことでした。
宝石の輸入卸が本業でしたが、小売の現場を体験する目的で、
宝飾品卸の取引先に依頼して、その得意先のお店で数日研修をしました。

ちょうど、そのお店は店頭催事の期間中で、たくさんのお客様が来店され、賑わっていたのを覚えています。
当時の私は、宝石のことは言うに及ばず、社会人としての経験もない若造で、接客の手伝いなど出来るわけがなく、ただただ、お店の方の邪魔にならないように後ろに控えているのが精一杯でした。

その時そこで見たものは、販売員さんがノルマを達成するために、ターゲットのお客様に電話をかけまくって来店を促し、分割払いを武器に執拗に販売する姿でした。
電卓の裏に信販会社の金利表が張ってあり、『月々に直すとこんなに小額な支払いで価値あるものが手に入る』と強調していました。
高齢のお客様も多く、年金だけで生活している方もいらっしゃいました。
店員さんの中には年金がいつ入るか知っている人もいて、それに合わせた支払いを薦める光景にも出くわしました。
既に以前に組んだクレジットを支払い中のお客様に対しても、言葉巧みに更なるクレジットを薦める強者もいました。

悲しいことに、ノルマが達成できない販売員さんは穴埋めに自分でクレジットを組んで購入していました。
その額が月々の給料に近いと嘆いている人もいて、この方々も被害者なのだと分かりました。

この時に目にしたことが、ずっと私の頭から離れることはありませんでした。
実は、これ以後このような販売に立ち会うことはなかったのですが、初めての小売体験が強烈過ぎて、思い起こす度に憤りを感じていました。

もう、お気づきですね。
このお店が倒産したのです。
報道でご存知だとは思いますが、クレジットを使った強引な訪問販売等が社会問題化し、信販会社が審査を厳密にするようになった結果、この手の営業が成り立たず倒産が相次いでいます。

信販会社や小売店に世間の非難が浴びせられていますが、お年寄りのような弱者を別にすれば、無理して買う方にも問題があります。

生活に必要なもの−家や場合によっては車−の購入に無理のない範囲でクレジットやローンを組むことは致し方ありませんが、宝石は、無理して買うものではありません。
何かの記念に思いを込めて購入したり、プレゼントするものです。
宝石は、余裕資金で購入してください。
余裕資金で購入した宝石は、人生に潤いを与えてくれます。

余談ですが、ある老舗の宝石店の社長さんにクレジットの比率を伺ったことがあります。
結果は、殆どないそうです。
このお店は、商品も接客も一流で業界でも最も尊敬できるお店の一つです。
無理して販売しない姿勢が全てに表れるのでしょうね。
皆さんもお店選びの目安にしては如何でしょうか。