ダイヤモンド原石

先週の香港ショーは期待通り終始積極的な売買が行われ、幕を閉じました。
業界の注目は、値上げしたダイヤモンド価格をバイヤーが受け入れるか否かにありました。
中国をはじめ新興国の旺盛な需要は価格より商品の確保に必死で新しい価格は概ね受け入れられました。

ダイヤモンド原石と研磨済みの値動きは短期的には一致しません。
原石の値動きは常に投機的でアップダウンが激しくなります。
研磨済みは、より需給を反映して原石より穏やかに動きます。

一昨年以来、ダイヤモンド原石の値上がりは激しさを増していました。
研磨済み価格も徐々に上がっていましたが、先月のDTC(De Beers)の原石価格の値上げが価格転嫁の引き金を引きました。
リーマンショック前の値上がりは、主に3カラットを越える大粒ダイヤモンドに限定されていましたが、今回は3カラット未満の全てに渡っていることで前回と様相が異なります。
特に値上がり幅が一番大きいのは高品質の小粒石です。
メレーダイヤモンドと呼ばれている1粒0・07カラット以下のものです。
この傾向は小さくなればなるほど強くなり、1粒0.02カラット(直径約1.7ミリ)以下は過去に経験がない水準です。

値上がりの根本的な要因は、ドル安です。
宝石はドル建てで取引されます。
ドル安の分だけ調整されます。

ドル安に上乗せ要因は需要増です。
世界景気の回復が報じられていましたが、米国の昨年のクリスマスセールの売り上げが思ったより良かったことが研磨業者を攻勢に向かわせました。
加えて新興国は好況を続けています。
長いこと前年割れを続けてきた日本の輸入統計がプラスに転じたことも心理的に影響しています。

DTC(De Beers)が価格の統制を放棄して起きたことは、大粒石(主に3カラット以上)の値上がりと小粒石の値下がりでした。
需給に任せた結果、大粒石は思いのほか稀少性が高く、小粒石は稀少性が低かったのです。
その後、大粒石は資産バブルと歩調を合わせてリーマンショックまで急激に値上がりました。
ショック後も数ヶ月でショック前の水準に戻し、現在は更に値上がり傾向です。
低迷していた小粒サイズも今回は上がりました。
特に最高品質の小粒石は1年前と比較して40%を超える勢いです。

これは原石価格の高騰と研磨済み価格の低迷で採算が合わなくなった研磨業者が生産を止めたり、減らしたことで流通在庫が少なくなったことに加え、ブランドの好調とも密接に結びついています。
腕時計やジュエリーに付加価値を与えられるのは小粒のダイヤモンドであることがはっきりしてきました。
貴金属で独自のフォルムを作って、小粒ダイヤモンドの量の多寡でラインナップを作る戦略の流行です。
ダイヤモンドのサイズが大きくなると独自のフォルムが作り辛く、付加価値よりも素材価値が高くなるので利益率も下がります。
その結果、高品質の小粒石に需要が集中して高騰しています。

過去にDTC(De Beers)が原石の値上げをしたにも関わらず、マーケットに受け入れられずに価格を戻したことがありますが、想像を超える需要を冷やすような要因がない限り今回は短期的に戻しそうにありません。
採算の合う鉱山からの原石の産出余力は限られている状況と新興国を中心とした世界的な需要増を考えると今後も価格の値上がり傾向が続くと心構えをする必要はありそうです。