「受け継ぐ人に喜ばれること」

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パープルサファイアリング鳥瞰 twitter S

 深紅のリングケースを開けると見たことのない美しい紫の大粒の宝石が出現しました。この手の紫の宝石は多くありません。代表的にはアメシストですが、この輝きは違います。直感的に屈折率が高いサファイアが浮かびましたが、今まで見た紫のサファイアはこんなに透明度が高くありません。胸の高まりを抑えてルーペで覗くとインクルージョンから紛れもないサファイア、しかもスリランカ産の無処理(加熱の痕跡無し)であることを確信しました。
 息を呑む美しさに暫く言葉を発することが出来ませんでした。「凄い品質ですね。」とプロらしからぬ率直な感想が出てしまいました。紫の色相には赤味のパープルから青味のバイオレットまで幅がありますが、これは真ん中より少しだけ赤味がある紫です。紫外線ライトを当てると真っ赤な蛍光を発するのでルビーの着色因子のクロムを含有していることが分かりました。スリランカ産のカラーチェンジサファイア(注1)によくある特徴です。紫外線を含む自然光下でより生き生きする現象はビルマ産のルビーに似ています。宝石の品質で最も重視されるサイズ(重量)でも12カラットと十分で、三味線の胴の様なクッションシェイプも時代を超えて人気の形です。
パープルサファイアリング側面

 このサファイアリングはあるご家族から相続の相談で持ち込まれていました。相続されたご兄弟のお母様の持ち物で、私が勤務している諏訪貿易株式会社の前身(注2)から約80年前に購入されたものの一つでした。他にもまるで浮世絵のような繊細で品のある帯留め、オールドカットのダイヤモンドソリテールリング等がありましたが、どのジュエリーもセンスが良くプロが個人的に欲しくなるものばかりです。このサファイアリングのデザインも指に着けた時に大粒であることを感じさせない洗練されたものです。古いジュエリーは現代的にリモデル(作り替え)することが殆どですが、このリングは作り替えてもこれ以上に出来るとは思えない完成度が高いものです。
 私の会社は「受け継ぐ人に喜ばれること」をモットーに目利きになって良いものだけを扱うことを理念としています。このリングケースの内側には「東京 諏訪製 電京816」と印刷されていました。「電京」とは電話 京橋局の略で後に続く3桁の電話番号で時代の古さが分かります。思いがけず先人の仕事に出会って純粋に畏怖の念を抱き、未熟を自覚し更なる精進を心に期しました。
諏訪ケース内側

 サファイアリングはより多くのプロや愛好家に評価してもらいたいので国際オークションに出品することにしました。世界中の人達によってどのような評価が下されるのか楽しみなところです。品質の高い宝石は資産になることを多くの人に実感してもらうことが私の喜びです。
 
(注1)典型的なカラーチェンジサファイアは自然光又は蛍光灯下ではブルーからバイオレット(青紫)で、白熱灯ではパープル(赤紫)に変化します。
(注2)1908年(明治41年)創業