ジュエリーコンシェルジュ原田信之

原田信之 所有されているジュエリーの活用方法をアドバイスする株式会社ジュエリーアドバイザー アンド ギャラリー JAAG(ジャーグ)の代表のブログ。オークションの査定や百数十回に及ぶ宝石の海外買い付け、ジュエリーのプロデューサーとしての経験を生かして、相続や売却、資産性のある宝石の購入のアドバイスをします。

ピジョンブラッド

続 バンコク買い付け

バンコクでは、無処理のルビー、サファイアを買い付けます。

主にビルマ(ミヤンマー)モゴック鉱山の無処理を買い付けます。
殆どが加熱を施すことで宝石として流通している同じくビルマのモンスー鉱山産の中にも無処理のルビーはありますが、透明度と色味が異なるので、私は買いません。
最近、ビルマ産無処理のルビーとしてGRSのレポートがついて出回っているものの多くがモンスー鉱山産です。
サファイアはスリランカ産やマダガスカル産のサファイアの無処理で美しいものがもありますが、モゴック鉱山の良いものがあれば、優先します。


モゴック産無処理Top lot and 2nd lot face down







これは、モゴック産処理のルビーのロットです。
どちらもトップロットです。
左が少し淡い赤で、右が濃い赤です。
右が「ピジョンブラッド」と言われているものが含まれているロットです。
サイズは1カラットから3カラットサイズです。
実際に選んだのは、右のロットから2つ程度です。
一つ一つが異なるので、トップロットと言えども満足できるものは僅かです。

モゴック産無処理Top lot and 2nd lot face up







フェイスアップで比較すると更に良く分かります。


今回、買ったものの中からルビーを一つご紹介します。

モゴック産無処理3カラットサイズMQ仮枠







サイズが分かり易いように、鉄の仮枠に留めて私の小指に載せました。
因みにサイズは11番です。
素人の写真では、色味の再現に限界がありますが、透明度が高いのが十分に分かると思います。
我々が「ピジョンブラッド」と表現しているルビーです。
3カラットサイズで、しかもより大きく見えるマーキスなので、濃くても内側からモザイク模様が湧き出てきます。
無色のファンシーシェイプのダイヤモンドと組み合わせて魅力的なリングにしたてようと思います。


ピジョンブラッド by GUBELIN

GUBELIN GEM LABは、トレードカラー用語の「Pigeon’s Blood Red」について下記のような説明をしています。
これも元は英文でしたが、分かりやすいように和訳してみました。
誤訳の可能性もありますので、引用はご遠慮ください。

Pigeon’s Blood Red

 ルビーの中で、本当のピジョンブラッドレッド−最初にビルマのモゴックで発見された−は最も貴重で価値があり、物質的と言うより精神的な色です。

 この魅力的な赤い色を言葉で表そうとするのは困難で、たとえ上手くいったときでも、その言い回しは書いた者と読んだ者に想像と解釈に余地を残します。
Eduard Gubelin博士はこのような言葉で語っています。
「ルビーは、その漆のごとく艶やかで煌きある表面の下に、ゆっくりとも燃ゆる赤い炎ごとく華やかに輝く色で人気があります。また、そのルビーという名称(RUBER=REDというラテン語から派生)は最も美しい赤を意味しています。淡く、ビロードのような陰影はピンクから濃い紫まで幅がありますが、最も高貴かつ貴重なニュアンスがあり、美の極致であるものは、深い赤色で満たしたピジョンブラッドレッドです。何よりも色づき、鮮明な赤い煌きでこの上ない贅沢なものがルビーです。」

 この真に赤い色がどのようにそしてなぜこの「ピジョンブラッド」という名前になったのかについて多くの伝説や神話があります。
生きている鳩の目の中心の色に例えたものもあれば、殺されたビルマ鳩の鼻からの最初の2滴の鮮血に例えたものもあります。
もっと科学的な(しかし神秘的とは言えない)説明もあります。
James B. Nelson氏はこの神秘的な赤に対するもっと定量的な説明を求めてロンドン動物園に協力を要請しました。
ロンドン動物園のリサーチ部門はすぐに彼の依頼に応え、鳩の鮮血(ピジョンブラッド)のサンプルを送りました。
それは上述の稀少かつ独特なルビーの赤色とまさに合致する色でした。
(Journal of Gemology, 1985, XIX/7)

かつてビルマの商人が言っていた。
「ピジョンブラッドを見たいと言うのは神の顔を見たいと言うようなものだ。」
(A pilgrimage to Mogok-Valley of Rubies, R. W. Hughes)



如何でしょうか。
分かり辛いところもありますが、概念であることは理解できると思います。
皆様の理解が少しでも進むことを願います。

続 ピジョンブラッド

いつもながら、ピジョンブラッドについて皆さんの関心は高く、ご質問も多く戴きます。
ゆもさんからのコメントにここでお答えしたいと思います。

Gubelin研究所は、もともとゴルコンダ等の特別な宝石には付記として別紙にコメントをつけていましたが、ピジョンブラッドに言及したのは、タイのGRSのレポートにピジョンブラッドと言うコメントが載ってから本格的になったと記憶しています。

1999年に元Gubelin研究所のラボに勤めていたDr. Perettiがバンコクにラボをオープンして、当初ある範囲の色のルビーにVivid Red(Pigeon blood)と記したレポートを発行していました。
これには、我々も困っていましたが、後にGRS Pigeon blood typeになりました。
ルビー、サファイアの集荷地と言う地の利もあって、このレポートがインターネットの業者等に出回り、市場シェアが高まりました。
見かねたGubelinが積極的にある範囲のルビーにコメントとして、下記のように記し始めました。

This colour variety of ruby may also be called “pigeon blood red” in the trade.

この表記には、大きな違いがあります。
GRSは、GRS内のPigeon bloodの基準に照らし合わせてと言う意味ですが、Gubelin研究所は概念的で商売上「pigeon blood red」と呼ばれることがあるとしています。
では、どのように決めているかと言うと身も蓋もありませんが、考え方に大きな違いがあります。
また、Gubelinは別紙に「pigeon blood red」について詳しく書いています。
 
私もラボが価値に関する範囲に言及することには反対です。
しかし、既にGIAが品質の一部についてダイヤモンドグレーディングレポートを発行して久しく、小売の世界では品質の基準になっています。
グレードだけで美しさは判断できないことを宝石に詳しい方はご存知ですが、長く使われてきたことと便利さで広く浸透しています。
このことから、誰かが品質の範囲について決めることを止めることは出来ません。
しかも、範囲を決める人は、良いものとそうでないものを別にしようとして始めますので、厄介です。
線を引けば、必ず矛盾も出てきます。
その矛盾をついて、ディスカウンターが活躍するも私たちは経験済みです。

 私に出来るのは、「レポートを鵜呑みにしないで、自分の目で美しさを判断してください」と言い続けることです。

Gubelin研究所の「pigeon blood red」については、日を改めてご紹介したいと思います。

ピジョンブラッド

ルビーのピジョンブラッドについて読者の方から質問がありましたのでご説明いたします。

そもそも、ピジョンブラッドは伝統的なヨーロッパの概念です。
決して、範囲が厳密に決められているものではありません。

その概念が形成されたその当時の環境を以下にまとめます。

1.産地
 良質のルビーはビルマのモゴック鉱山に限られていた。
2.処理
 当時は、現在のように高温加熱の処理は存在していないので、
 宝石品質のルビーの透明度は高かった。
3.ジュエリーのメインの宝石には存在感のある大粒が使われていた
  多くは、3カラット以上で日本のように1カラット以下のものをメインストンに仕立てることはなかった。

以上のこととピジョンブラッドは濃い赤色ということを合わせると。

ビルマのモゴック鉱山産の無処理でメインストンサイズの濃い赤のルビー」と言うことになります。

同じ濃い赤色だったら、1カラット以下の小粒のものでも良いのではと言う方もいらっしゃいますが、濃くても大粒なら内側からモザイク模様が浮かび上がり明るくなるのに、小粒は、モザイクが小さく私たちの眼には明るく感ぜず、真っ暗な印象になってしまいます。

また、ビルマ産ルビーの多くは紫外線に当てると蛍光を発します。
もともと紫外線を含んでいる自然光の下では燃えるような赤になることも美しさの源です。

更に当時は今より品質の高いものがジュエリーになっていたので、より透明度が高く、モザイク模様もより鮮明で美しいルビーの代名詞になったのだと思います。
今のように加熱のものが殆どの場合は、透明度が高くないので大粒で濃い赤色でもモザイク模様は弱くなります。

以上の条件を満たすピジョンブラッドと言われるようなルビーは限られています。
もちろん、出会えたら幸運ですが、言葉に拘らずにより大粒で少し明るい透明度の高いルビーを選んでみたらいかがでしょう。
日常生活の多くの場面で美しい赤色を発します。

そして、4ミリ以下のような小粒のものは1カラットサイズのものより更に薄めがジュエリーとして綺麗になります。

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