ジュエリーコンシェルジュ原田信之

原田信之 所有されているジュエリーの活用方法をアドバイスする株式会社ジュエリーアドバイザー アンド ギャラリー JAAG(ジャーグ)の代表のブログ。オークションの査定や百数十回に及ぶ宝石の海外買い付け、ジュエリーのプロデューサーとしての経験を生かして、相続や売却、資産性のある宝石の購入のアドバイスをします。

ファンシーピンクダイヤモンド

ジュエリーアドバイザーの仕事帖

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「オークションで考える宝石の資産性」
 「こちらのピンクダイヤモンドは人気がありますので3億円からはじめましょうか。」
オークショナーの一言に会場と電話でのビットによって10数本のパドルが一斉に上がりました。3億1千万円、3億2千万円、3億3千万円と1千万円ずつせり上がり1分後には4億円の大台に乗りました。このあたりから競り手が絞られてきました。数人の電話でのビットに対し会場で参加している中華系のご婦人が受けて立つという状況に変わりました。4億1千万円、4億2千万円と上がり続けるビットにもこのご婦人は間髪入れずに応戦して降りる気配がありません。4億5千万円を超えたあたりから電話側の考える時間が増えてきました。一方ご婦人は絞り出されたビットにも全く動じず、直ぐにパドルを上げてきます。価格はついに5億円を超え電話のビットは更にペースダウン。5億1千万円、5億2千万円とこの辺りまではどうにか付いてきましたが、5億3千万円に達するとピタリと止まりました。オークショナーが5億3千万円を連呼して電話側のビットを促す時間が続きます。ビットしてもビットしても下りない相手に電話の主からの徒労感が固唾をのんで見守る会場内にも伝わってくるかのようです。沈黙が1分ほど続きついにオークショナーからラストコールがかかりました。「皆さん下りていますね。」「5億3千万円、会場のお客様が落札です。」会場から拍手が湧き上がり、落札者を祝福してこの競りは終了しました。
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 私が知る限り5億3千万円という金額は、日本のジュエリーオークション史上の最高額となります。今回この額をたたき出したピンクダイヤモンドのGIA のレポートには6.11カラット、モディファイドペアーシェイプブリリアントカット、Fancy Intense Pink VS2 Typeaと記載されています。しかし、このデータだけではこの宝石の持つ美しさは正しく伝わりません。ルースの先端が丸く研磨されているのでペアー(洋ナシ)というより卵形の方が分かりやすいかと思います。最近はガードルの下にプリンセスカットのような細かいファセットをつけて色だまりを作り、色を濃く見せるカットが主流なのですが、このピンクダイヤモンドはスタンダードなブリリアントカットである事、キュレットの形状、欠けやすい尖った部分を丸く仕上げたカッターの見識注)などから見て少なくとも50年以上前に研磨されたと想像できます。色相も多くのピンクダイヤモンドがFancy Purplish Pinkなのに対してFancy Pink、いわゆるストレートピンクなので稀少性が高くなります。色の濃さもIntenseとファンシーカラーの中では十分な明度です。日本人には「綺麗な桜色」と言うと想像しやすいと思います。クラリティのVS2もガードル周りの白いフェザー(羽状内包物)によるもので美しさを損なわず天然の特徴と言えるため購入を妨げる類のものではありません。
6.11ct PS Fancy Intense Pink VS2 GIA Report

 落札価格は日本円にして5億3千万円、これをオークション時の為替145円で計算すると約3.7百万米ドルとなります。仮にこのダイヤモンドが今年の初めに開催されたオークションにでていたとします。当時の為替は110円近辺ですから、落札価格は4億円程度となったでしょうか。出品者にとっては円安の恩恵で1億3,000万円も増えた計算です。宝石はドル建てで取引される商品ですから、ドル資産となって自国通貨安の時にはドル預金のような効果を発揮します。
50年前の1970年代前半、ダイヤモンドの相場は安く、特にファンシーカラーダイヤモンドの相場は現在の10分の1以下ほどでした。もしその頃にこのピンクダイヤモンドを日本の方が購入されていたとしたなら、固定相場で為替308円であったことやその後の為替の変動を差し引いても十分にお釣りのくる資産性を発揮したと言えるでしょう。
稀少性の高い宝石は、何より身につけて美しさを楽しみ、長期的には資産にもなり得る事を今回のオークションは教えてくれているのではないのでしょうか。
6.11ct PS Fancy Intense Pink VS2 discription

注)この卵形の先端に爪を掛けると尖ったように見えるので、視覚的にはペアーシェイプと同様になります。ダイヤモンドの保護を考慮したカッターの見識。


ジュエリーアドバイザーの仕事帖

Fancy Intense Blue Diamond Ring S

「インフレと宝石」
2022年4月27日、のSotheby's Hong Kongのオークションで15.10ct Fancy Vivid Blue Internally Fl awlessのエメラルドカットダイヤモンドが57.5百万ドルで落札されました。1カラット当たり約3.8百万ドルという高値です。 価格が比較出来る20年前の相場の10倍以上になっています。
今年になってコロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻による経常収支の悪化と日米の金利差から円安が進んでいます。輸入物価が急速に上がって、ついに日本もインフレ局面に変わってきました。従来、インフレに強い資産と言われるのは金や土地の現物資産と株式などの有価証券、米ドルなどの外貨ですが、それに加え最近、宝石を資産として買いたいと言うご要望が増えています。果たしてこれらの選択肢に比べて宝石はどのような位置づけになるのか考えてみたいと思います。
まず、宝石の価格は米ドルがベースです。私の場合、日頃からドルの相場を記憶しておき、宝石を評価す際にそのときの為替レートで円換算しています。宝石を持つと言う事はドルの資産を持つと同様な意味があると言えるでしょう。
次に、宝石は動産なので持ち運ぶことが出来ます。金も動産ですが金額が大きくなると持ち運びには不向きです。文頭のブルーダイヤモンドの金額を最近の金価格で計算すると約950キログラムになり、一般的な軽自動車より重いと言うことになります。それに比べ、15カラットのブルーダイヤモンドはグラム換算でたった3グラムです。一円玉三枚とほぼ同じ重量なにで携帯性は非常に高いのが分かります。
またダイヤモンドの名前の由来はギリシャ語の“アダマス adamas(征服されざるもの)であることこら分かるようにどんな物よりも硬く、どんな酸やアルカリ溶液にも冒されなく、耐久性はトップクラスです。但し、炭素の結晶なので火事のような高温には弱いため心配な方は耐火金庫やしっかりとした貸金庫に保管されることをお勧めします。
 元々宝石は身につけて美しさを楽しむのが基本ですが、様々な宝石の中で長期に保有すると資産として向くものと向かないものがあります。では、どのようなものが資産性が高いのでしょうか。
第一に、長く取引がされて歴史に裏付けられた伝統があるもの。その中で耐久性にかかわる硬度が高い物(注1)が上げられます。代表的なものはダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルドになります。さらに稀少性に影響するある程度の大きさ以上で特別な産地から産出されたもの、そして処理が殆ど施されていないことも条件です。カラーレスのダイヤモンドはカラー、クラリティも大事ですが予算の中で出来るだけ大粒のもの、出来れば3カラット以上がお勧めです。同じ予算ならラウンドよりサイズアップできるファンシーシェイプも良いでしょう。ブルーやピンクのファンシーカラーダイヤモンドは小さくてもとても高価なので1カラット以上を目指したいところです。ルビーはビルマ(ミャンマー)モゴック鉱山産で3カラットサイズ以上の無処理(注2)、サファイアでしたらカシミール産かビルマ産で5カラットサイズ以上の無処理、エメラルドでしたらコロンビア産ではやり5カラットサイズ以上の無処理か軽度な処理(注3)をお勧めしたいところです。
 宝石に添付されるレポートも世界に通用しなくてはなりません。クリスティーズやサザビーズ等の国際オークションのカタログに掲載されているものが基準となります。ダイヤモンドグレーディングレポートは4Cを発明した米国のGIAが独占しており、カラーストンの鑑別書はスイスのSSEFやGUBELIN、米国のAGL、GIAがよく使われています。もちろん英文表記です。
また資産性を考えた場合はどのレベルの価格で購入するかが将来の価値に影響します。流通マージンがそぎ落とされて価値が担保されているオークション等の仲介業者から購入するのも大切です。但し品質を見極める目が必要なので上級者向けでもあります。
宝石は株や貴金属の価格のように短期的なアップダウンはありませんので長く楽しんで後に確かな価値が残る資産として考えことが大切です。

参考:2014年12月22日に「インフレと宝石」と言う同じタイトルでブログを書きました。 

*画像はイメージです。


注1:ここでは「硬度の高い物」とはエメラルドのモース硬度7½以上と定義します。
注2:ルビー、サファイアの「無処理」とはNo Indication of Heating(加熱の痕跡を認めず)
注3:エメラルドの「無処理」とはNo Indication of Clarity Enhancement(透明度の改善を認めず)
「軽度な処理」とは透明度の改善の為の含浸処理の程度をMinor又はF1(より少ない)、Moderate又はF2(中くらいの)、Significant又はF3(著しい)の3段階にクラス分けしたMinor又はF1以上のもの

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