ルビーの指輪















1945年日本軍は、ビルマ(ミヤンマー)からの撤退を余儀なくされた。
その時一人の軍医が首都ラングーン(ヤンゴン)で手に入れたルビーの指輪を、鞄の底に仕込んで密かに持ち出した。
体一つ無事に戻ることさえ難しい状況の中、その指輪は無事日本に持ち込まれた。
その後、指輪は軍医からある男性の手に渡った。

先日、一人の女性から指輪の査定依頼があった。祖父から譲り受けたものだそうだ。
そう、それが軍医が決死の思いで日本に持ち帰ったルビーの指輪である。

3カラットサイズの明るく透明度の高い、ややピンクがかった赤い宝石は、イエローゴールドの枠に上下左右を先割れの爪で留められている。
歪で形の悪いカットは、原石の歩留まりを重視した典型的なビルマのものだ。
しかし、残念ながら、一目で合成ルビーと分かった。
合成ルビーの歴史は古く、既に100年前から存在している。
当時は、鑑別が出来ずに天然よりも高値で取引されていたが、鑑別技術の進歩で見分けることが出来るようになると宝石としての価値はなくなった。
ルビーの指輪クローズアップ














宝石としての価値は無いが、日本に辿り着いた物語や祖父から受け継いだ家族の想い出を伺って、この指輪が非常に愛おしく思えてきた。
大切に受け継がれた装身具には、金額に換えられない価値がある。
所謂センチメンタルバリューだ。
家族の中で語り継がれて、次の世代に受け継がれていくのが、この指輪の最も相応しい姿であろう。