ジュエリーコンシェルジュ原田信之

原田信之 所有されているジュエリーの活用方法をアドバイスする株式会社ジュエリーアドバイザー アンド ギャラリー JAAG(ジャーグ)の代表のブログ。オークションの査定や百数十回に及ぶ宝石の海外買い付け、ジュエリーのプロデューサーとしての経験を生かして、相続や売却、資産性のある宝石の購入のアドバイスをします。

鑑別

続 ムンバイ 買い付け

放射線でファンシーカラーのような色をつける処理は、私が業界に入った頃から行われているので既に珍しいものではありません。
ここムンバイでも最近、同様の処理石が多く見られるようになって来ました。
ティーラーに尋ねると、専門業者に依頼して3日で上がってくると言うのを聞いて驚きました。
恐らくカルカッタあたりで処理しているのではと言うことです。
現在は分かりませんが、以前問い合わせたところでは、アントワープでも米国に送って処理しているとの事でした。
放射線の施設のことは、分かりませんが、インドの核開発が連想されて、少し怖い気持ちになりました。
費用は、1カラット当たり25US$で出来るそうです。


放射線処理ダイヤモンド







これが処理されたダイヤモンドです。
サイズは0.25〜0.7カラットです。
その会社の技術レベルによりますが、殆どの色が可能です。
以前は、この処理石のように如何にも怪しい色合いでしたが、
現在は天然のファンシーカラーと一目では見分けがつかないものになっています。
特に費用の点で鑑別を行わないメレーサイズは、問題です。


放射線処理前ライトブラウン







処理前のライトブラウンのロットです。
元が無色でしたら、もっと綺麗な色にあがりますが、
処理石に元手をかける業者は多くはありません。
因みに無色の高品質のものと比べると5分の1程度の価格です。



放射線処理 前と後







処理前と処理後のダイヤモンドをフェイスアップで並べてみました。

メレーサイズの綺麗なピンクやブルーは、天然と放射線処理では価格が100〜200倍、場合によってはそれ以上違います。
本来、全く別に扱われる商品です。
我々業者は、traceability(追跡可能性)のしっかりした仕入れを行うことが第一です。


ダイヤモンドのHPHT処理

HPHT処理」とは、High-Pressure High-Temperature(高温高圧)処理のことです。
ダイヤモンドを高圧下で熱処理することによってダイヤモンドの色を改善します。
日本語では「高温高圧処理」と呼ばれていますが、何故か英語では順番が逆さまになります。
実際の処理の順番が英文どおりに高い圧力をかけてから高温にするのかも知れません。

今年の初めにインドから仕入れたマーキスの中から初めて「HPHT処理」のダイヤモンドが見つかりました。
HPHT MQ 0.49ct F VVS1







通常、諏訪貿易は仕入れは原石の出所がはっきりしている研磨業者から仕入れることを原則にしています。
この場合は、Traceability−Trace(足跡をたどる)とAbility(できること)の合成語で日本語では「追跡可能性」と訳されている−があるので処理の問題はありません。
但し、品質やサイズの特定のものを集める場合は、流通業者を通して広く集めなくてはならない事があります。
その場合は、ラボに依頼して鑑別をしなくてはなりません。
今回はこのケースです。
以前より同じルールでたくさんのダイヤモンドを鑑別してもらってきましたが、「HPHT処理」が見つかったのは今回が初めてです。
因みに「HPHT処理」は専門の機械と技術が必要ですので、一般的な業界の方には鑑別できません。

今回は初めに全国宝石学研究所にお願いして「HPHT処理」の鑑別結果が出ました。
初めてのケースだったので、確認のためAGTジェムラボラトリーにも依頼しましたが、結果は同様でした。
その後、万全を期すためにニューヨークのGIAに送りました。
今週の月曜日にダイヤモンドと共に結果が送られてきました。
GIAもやはり「HPHT処理」でした。
現物をご覧ください。
HTHP GIA Grading Report
HTHP GIA Grading Report Close up














日米で結果は同じでしたが、大きく異なるのは、GIAで「HPHT処理」と判断されるとダイヤモンドのガードルに「HPHT PROCESSED」とレーザー刻印がされる事です。
これは間違って無処理のダイヤモンドとして流通をしない為のものです。
もちろん刻印は、研磨により落とすことは出来ますが、GIAの姿勢を見ることが出来ます。
一般のデジカメで撮影したので鮮明ではありませんが、ガードルに「HPHT PROCESSED」とレーザーで彫られているのが分かります。
HPHT PROCESSED Mark MQ 0.49ct







但し、日本のラボにも良いところがあります。
日本の両ラボは結果が出るまでに1週間足らずでしたが、GIAは行き帰りの日数を除いても1ヶ月半以上かかりました。
世界中から大量の依頼があるのは分かりますが、差がありすぎます。
無色のものでも3週間以上かかります。
グリーン等の難しいファンシーカラーの場合は半年かかることも少なくありません。
日本のラボは仕事が速いのが有難いことです。
しかも技術的には同等以上です。
しかし、悲しいことに国際的な仕様ではないので、日本国内しか通用しません。
全国宝石学協会さんも英語のレポート発行の予定があるようですが、日本を代表してがんばってもらいたいところです。

「HPHT処理」に関しては、全国宝石学協会さんのページに詳しく載っていますのでご覧ください。



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